2021-10-22

なぜ、みずほ銀行はシステム障害解決の『司令塔』を作れないのか?

システム障害への対応状況についてオンライン会見を行った、石井哲・みずほFG最高情報責任者

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 みずほは02年、11年という2度の大規模障害を受けて、新基幹システム「MINORI」を、4500億円超を投じて新たに開発、19年に稼働した。

 開発に携わったのは富士通(旧第一勧業銀行)、日立製作所(旧日本興業銀行)、日本IBM(旧富士銀行)とNTTデータという4社。多くの会社が携わったことで設計が複雑になったことも、システム障害の要因ではないか? とも指摘される。

「どちらかというと設計に欠陥があると言える。ただ、単純に設計といっても様々なレベルがある」と指摘するのは静岡大学情報学部教授の遠藤正之氏。

 遠藤氏は1983年に三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。第3次オンライン開発、東京三菱銀行、三菱東京UFJ銀行のシステム統合に携わってきた経験を持つ。

 遠藤氏はMINORIについて、システムの骨格をなす「アーキテクチャ設計」で4つの基盤構造を組み合わせている点に難点があると指摘する。それによって構造が複雑化し、その複雑化を理解する要員が少ない点が問題ではないかという。

 そして「本来、全面更改したシステムは、リリースした直後にトラブルが最も出やすい。2年経過してからトラブルが多数出ている点は異常」(遠藤氏)。

 稼働から2年は安定稼働を重視して予算を投じ、人員も確保していたが、足元では人員・保守コストの削減に入っていた。

 例えば、みずほFGで特にMINORIを活用していると目されるリテール・事業法人カンパニーの経費の中でシステム費の推移を見ると、18年度が1470億円、19年度が1234億円、20年度が1140億円と、その内訳は開示されていないものの、年々減少している。

 みずほのシステム障害を調査した「システム障害特別調査委員会」の報告書によると、稼働後にはコスト構造改革で開発部門は大幅に要員が削減され、維持・メンテナンス体制が恒常的に要員不足となっていたと記載されていた他、MINORIの構築・設計に携わったメンバーが異動や退職でいなくなった後、その引き継ぎも十分でなかったことが明らかになっている。

「本来、みずほ内部の人間にスキルを引き継ぐことが必要だが、それができていないのではないか」と遠藤氏。みずほFGの石井氏は今回、再発防止策として、ベンダー出身者の採用や出向を含め、ベンダーとの協力関係強化を挙げたが裏返せば、そこが手薄だったということ。

 この複雑なシステム、複雑な管理体制を改善するために必要なことは何か?「みずほ側の要員がベンダーをグリップできる体制が必要。そのためにもみずほの組織内のレポートラインを簡素化し、システムに関する知見を高めていくことが必要。そしてベンダー側のスキルをできる限り、みずほ側に移転して内製化の力を付けていくことが考えられる」と遠藤氏は指摘する。

 一朝一夕にできることではないが奇策はなく、地道に取り組む他ない。

 また、金融庁は検査の中でシステムだけでなくガバナンスの問題点も探り、経営責任の明確化を求めていく方針だが、これはつまり経営陣の処遇をどうするかということ。

 まだ確定的なものはないが、会長に外部の経済人を招聘する、社長を替えて内部から昇格させる、本体から出た役員を呼び戻して社長に就けるといった案が取り沙汰される。6月の株主総会で承認されたみずほFG社長の坂井辰史氏を始めとする現経営陣が続投する可能性もある。

 いずれにせよ、金融庁の監視下に置かれ、民間の自主性を損なったみずほFGに後はない。再発防止、障害が発生した際の復旧策を万全なものにできるかが問われている。

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