コロナ禍でリアルのライブが開催しづらく、開催したとしても満員にできないという状況下、サザンオールスターズやB’z、星野源といった人気アーティストも無観客による配信ライブを開催していた。だが、数秒から数分のタイムラグが生じることが最初から謳われていた。
「ライブ配信はいきなり始まってしまったという状況だったので多くの場合、品質面でうまく回っていないという話は業界の方々からお聞きしていた。『参入してくれるなら一緒にやりましょう』というお話もあった」
NTTコムのサービスは、同社が持つウェブ上のリアルタイムコミュニケーション技術を活用して、1秒未満という低遅延のライブ配信を可能とした。
だが、すぐに数万人単位のイベントを手掛けるのは難しいため、最初は実証実験的に小規模予算でテスト配信をすることから始めた。
そこでの感触を得て、サービスのリリースと同時に前述のサンボマスターのライブで基盤を担うことになった。ライブではボーカル・ギターを担当する山口隆さんが観客を盛り上げるのが定番。会場はもちろん盛り上がったが、今回はライブ配信で参加していた観客もテキストでリアルタイムに、山口さんへの反応を書き込むことができた。
遅延なくリアルタイムに音と映像が入ってくることに音楽関係者は驚いた。ライブ配信は30秒程度遅れるのが当たり前だと思っていたからだ。
実は当初、金子氏は「音楽ライブのDX」を掲げて社内にプレゼンしていた。ライブを撮影して配信するだけでなく、場面ごとに検索できるようにしたり、視聴履歴、ユーザー属性でニーズを探るといったデータ利活用ができるのではないか、といった可能性を探っていた。
しかし、これらは足元の音楽業界の現場のニーズとは乖離していた。とにかく無事にユーザーに映像や音声が届き、アクセスが集中してもサーバーがダウンしないといった、イベントの品質を担保するサービスが求められていたのだ。
コロナ禍が落ち着いた後は、ますます会場でのライブが復活することが予想される。その時にライブ配信サービスはどうなるのか。「リアルタイム性を生かしてファンとの交流に使ったり、特別料金を支払ったファンの方がライブ終わりの楽屋を覗けるようにするなど、ライブ収益を伸ばす手段となっていく」
前述の星野源の配信ライブは10万人が視聴し、約3.5億円の興行収入を得たが、同規模の集客をするためには従来、東京ドームを2日間借りなければならなかった。それが配信ライブであれば小さく、安い会場で済む。リアルとの融合で、収益機会が拡大する可能性がある。
さらに今、オンライン販売とライブ配信を組み合わせた「ライブコマース」が中国で急激に拡大している。双方向でコミュニケーションができるため自動車や家具、化粧品などの高額商品も売れているというが、テレビ通販と親和性の高い日本でも普及が見込まれている。これにNTTコムの配信基盤が活用できる可能性がある。
「検討中ではあるが、当社がこうした市場を支えるインフラとなる可能性はある」と金子氏。
1人の提案から生まれたサービスが、NTTコムが新たな市場を切り開くための武器になりつつある。