2021-11-01

地銀協会長(静岡銀行頭取)が語る「これからの地方銀行の役割」

柴田久・全国地方銀行協会会長(静岡銀行頭取)



地銀再編にはどう対応するか


 ─ 地銀業界全体に再編ムードもあるわけですが、どういうスタンスで臨みますか。

 柴田 再編には統合、合併、提携とありますが、いずれにせよ、ビジネスモデルをどう変えていくかが問われます。

 まずは地域において地方銀行が何を求められているのか。お客様のニーズを起点にして、いかに新しいビジネスモデルをつくっていくのかを考えるわけです。その中で自行の経営資源だけでは足りない部分を補うために他行との合併を選んだり、異業種との連携・提携を選ぶという話が出てくるという順番だと考えます。

 地方銀行の中には、例えばシステムで地域に関係なく連携を進めたり、M&A(企業の合併・買収)の分野で提携するなど、部分部分で他行と連携するケースが出てきています。また、地域内の再編、隣接県での経営統合を行う銀行もあるなど、様々な形が見られます。

 ─ 各行、各地域で事情は違いますから個別の判断で進めていくということですね。静岡銀行は隣県の山梨中央銀行と提携していますが、この効果は?

 柴田 山梨中央銀行さんとは、静岡銀行のグループ会社の機能を活用してもらうことを含め10の分野で様々な連携施策を進めており、5年間で両行合計100億円の収益効果を上げることを目指しています。提携したのは昨年10月28日ですが、今年6月末までの8カ月間ですでに14億円の効果が出てきています。

 今は全てを自前主義でやっていける時代ではなくなってきていると思います。我々地方銀行は、メガバンクのように人材が豊富にいて、システム投資などを含めて全て自前で賄っていけるだけの経営体力があるわけではありません。それぞれの地方銀行が足りない部分を補うという意味でのオープンな連携や提携は有効な手段ではないかと思っています。

 ─ 改めてメガバンクにはない地銀の強みはどういうところにあると考えていますか。

 柴田 やはり地域密着という点だと思います。メガバンクは東京圏から営業を行う、専門性が高い銀行です。これに対し、地域で店舗も含めて身近な存在となるのが我々地方銀行です。ですから、地域密着の強みを深掘りしていく、強く磨き上げていくことが重要だと考えています。

 今回のコロナ危機は、我々地方銀行の存在が見直されるきっかけになったと思います。こうしたなか、各銀行が様々な工夫、取り組みを行い、単なる銀行としての存在からの脱皮を進めています。

 地域商社的な事業に取り組んでいる銀行があれば、地域企業のDXを強力に進めるためシステムに注力している銀行もあります。各行の創意工夫で、新しい様々な取り組みが出てきていると感じます。

 ─ 新分野の開拓にあたって、近年行われている銀行法の改正は効いていますか?

 柴田 ええ。銀行法の改正は、この数年でも断続的に行われていますが、これは我々にとって非常に大きな意味を持ちます。

 今年の5月に公布され、11月に施行予定の改正銀行法では、銀行の子会社や兄弟会社の業務範囲が広がったり、「従属業務」(その会社にとって従属する銀行やその子会社等の業務に関する事務)の収入依存度の規制が緩和されます。

 我々地方銀行が、工夫次第で新たな事業を営むことができるよう、道が開かれてきていると思います。

 ─ コロナ禍を経て、デジタル化が加速していますが、銀行のDXに対する考え方を聞かせて下さい。

 柴田 DXはあくまでも手段だと考えています。DXを進めながら、企業のビジネスモデルをどのように変えていくかというところにつながっていくのだと思います。

 DXを進めるにあたっては、企業の文化自体を変えていかなくてはいけません。その企業が何年も当たり前のようにやってきたやり方、従来の考え方を変えていくことが求められますが、デジタルだけで業務を変えていくのは難しい。DXはその文脈で考えていく必要があります。

 さらに言えば、我々のDXだけでなく、地域の取引先のDX支援も大きなテーマです。何かの業務をDXで変えようという時に、我々のシステムだけが整っていても、お取引先が同じ環境になければ、一気通貫でデジタル化できないからです。

これからの銀行のあるべき姿とは?


 ─ 日本全体の問題として「東京一極集中」があります。地方再生の最前線にいる地銀として、この問題をどう考えますか。

 柴田 背景には複合的な要因があると思います。例えば人口減少で言えば、静岡県の高校を卒業した後、多くの人が首都圏の大学に進学しています。これには静岡県内に教育機関が少ないという問題が関係しています。

 さらに、その首都圏の大学に通った人達は地元に戻らずに、首都圏で就職してしまうという現実もあります。これは地元に魅力ある職場が少ないことがその一因だと考えられますので、静岡の産業や企業の魅力をもっと高めるための支援も、地方銀行の重要な役割の1つだと思います。

 静岡銀行では、「TECHBEAT Shizuoka」というイベントを静岡県と共催し、首都圏のベンチャー企業が持っているノウハウと、静岡県内企業とをマッチングさせることで、県内企業が魅力ある企業として成長する、あるいはベンチャー企業が静岡で事業を立ち上げ、新たな産業が育つといったことを目指しています。

 ─ 雇用を生む意味でも重要な取り組みになりますね。

 柴田 そう思います。今回のコロナ危機で、首都圏一極集中が見直される機運があると感じます。首都圏からの移住という観点では、全国で人気1位が静岡県、2位が山梨県です。

 現在、山梨中央銀行さんとの間で、例えば移住・定住者向けローンなどの新しい金融サービスを提供することで静岡県と山梨県に人々を呼び込むことができるのではないかと思案しているところです。

 ─ 柴田さんが考える、これからの銀行のあるべき姿を聞かせて下さい。

 柴田 先程も申し上げましたが、伝統的なビジネスモデルで収益を上げていくことは難しい時代を迎えています。こうしたなか、これからの時代においては、お客様に寄り添い、課題を解決するための業務をいかに磨いていくかが、各銀行のビジネスモデルをつくる上で重要になってきます。

 今後は、従来以上に「銀行グループ経営」にスポットが当たってくるのではないかと考えています。静岡銀行にも連結で13社のグループ会社がありますが、それぞれの会社が自立し、専門性を磨きながら成長すること、そして相互の連携を高め、グループとしてより高度で多様な総合金融サービス機能を提供することが大事だと考えています。

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