2021-11-04

東急不動産ホールディングス社長が語る「コロナ禍でもリアルのコミュニケーション、オフィスは重要」

西川弘典・東急不動産ホールディングス社長



変化はチャンスにつながる


 ─ 改めて、西川さんが就任と同時に直面したコロナ禍ですが、どう捉えてきましたか。

 西川 コロナ禍を受け、この先、何を基準に、どういう方向に会社のカジを切っていけばいいのかについて深く考えました。

 ただ、医療関係者や危機管理の関係者など様々な方に話を聞く中で、感染症は必ず収束するものだという認識を持つことができました。そこで先程申し上げたように2、3年ではなく10年先を見るという長期ビジョン策定につながったのです。

 逆に、こうした危機はビジネスチャンスだと思いましたし、社員にも伝えました。世の中で起きる大きな変化は、必ずビジネスチャンスにつながります。変化をよく見て、チャンスを逃さないようにしようと繰り返し社内に訴えてきました。

 ─ オフィス事業ですが、ポストコロナを睨んだ見通しを聞かせて下さい。

 西川 我々が本拠を置く渋谷はIT企業が集積しており、我々のテナントにも多いのですが、環境が整っていることもあり、コロナ禍の中で真っ先にテレワークに入りました。

 オフィス契約を解約するという話につながるのではないか? と一瞬思いましたが、すぐに「そうはならないだろう」という考えに切り替わりました。

 ─ この理由は何ですか。

 西川 渋谷再開発にあたり、米国のITプラットフォーマー「GAFA」のオフィスを見せてもらいました。彼らは効率的な会社運営に向けてテレワークを導入してはいましたが、実はセンターオフィスの重要性も併せて認識していました。

 新しいものを生み出すには、みんなでコミュニケーション、議論をしていかないとブレイクスルーはできないというのが彼らの話でした。ですからGAFAのオフィスは非常にコミュニケーションを取りやすいデザインになっていました。

 コロナ禍で、この経験を思い出したのです。テレワークは導入されても、日本には仕事の進め方として上司に少しずつ相談しながら進める「ちょっといいですか文化」があります。これはテレワークだけでは難しい。

 実際、昨年秋頃には当社のメインテナントさんは軒並みオフィスに戻ってこられました。テレワークができたのは、それまでの「コミュニケーション貯金」があったからだと。やはりコミュニケーションを取りやすいオフィスで働かないと、会社がおかしくなってしまうとおっしゃっていました。

 ですから、当社のオフィス事業は稼働率、賃料ともに大きな変動はありませんでした。一時、渋谷区のオフィス空室率が上がったと言われましたが、渋谷区のオフィス面積は港区の半分ほどしかなく、大きなテナントの動きで空室率が跳ね上がりやすい構造になっているんです。

 ─ リアルの重要性を再認識したということですね。

 西川 そう思います。我々も先程の長期ビジョンの議論は、フェイス・トゥ・フェイスでないとできなかったと思います。

 オフィスでは「センターオフィス」と「サテライトオフィス」という考え方が必要だと思います。センターオフィスはGAFAのようにコミュニケーションが取りやすく、社員がそこに行って働きたいと思える場所であることが大事ですし、働き方の多様性を事業に組み込んでいくためにはサテライトオフィスやワーケーションなども必要になります。

 ─ 最近、東急不動産が開発を手掛けた象徴的なオフィスが「東京ポートシティ竹芝」だと思いますが、どういう狙いで開発しましたか。

 西川 全棟をソフトバンクグループさんに借りていただきましたので、我々もエリア一帯でスマートシティづくりに取り組むことができると考えました。

 今、交通システムも含めて、新しい街のあり方を研究していますから、そこで得た知見は今後の渋谷再開発でも活かしていきたいと思います。

 竹芝周辺は、かつては倉庫や東京都の施設が立ち並ぶ場所でしたが、都が国際的ビジネス拠点を整備する狙いで、民間企業を募集し、当社と鹿島さんのグループが選ばれました。

 都からの要請もあって、JR浜松町駅前から、首都高速道路の高架をまたいだ歩行者デッキも整備することができました。担当者も様々な調整を頑張ってくれました。

 ─ 近く竣工する再開発にはどういうものがありますか。

 西川 直近では「渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業」があります。オフィス、商業施設、住居が入る複合開発で竣工は23年度を予定しています。

 他にも、登録有形文化財建造物である旧九段会館を一部保存しながら建て替える「(仮称)九段南一丁目プロジェクト」が22年7月竣工を予定しています。

 ─ 西川さんはリゾート開発の経験が長いですが、現状はどうなっていますか。

 西川 実は当社の会員制リゾートホテル「東急ハーヴェストクラブ」の会員権は順調に販売できています。富裕層の行動はコロナ禍でも大きく変わっていないことが要因です。

 また、以前はインバウンド(訪日外国人客)で埋まっていた当社のニセコ、沖縄、京都ですが、今は海外に行かなくなった日本人のお客さまで埋まっています。

 コロナ禍の影響もあり、長期ビジョンのなかで「ライフスタイル創造3.0」として提唱してきた生活シーンの融合が、想定よりも早く進んでいると感じます。テレワークが普及し、多様な働き方が一般的になりました。働き方の多様化は、すなわち生活の多様化です。仕事と休暇を組み合わせたワーケーションやマルチハビテーションなど、生活シーンが融合した暮らし方は、今後さらに広がるものと考えています。

 私たちは、住まい方・働き方・過ごし方のそれぞれで多彩なソリューションを持つ事業ウイングの広さを持っています。それに全社方針である環境経営・DXをかけ合わせ、これからの時代にふさわしい新しいライフスタイルを積極的に提案していき、成長を加速したいと考えています。

にしかわ・ひろのり
1958年11月北海道生まれ。82年慶應義塾大学経済学部卒業後、東急不動産入社。2014年取締役専務執行役員、16年東急不動産ホールディングス取締役専務執行役員、19年代表取締役上級執行役員副社長、20年4月代表取締役社長社長執行役員。

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