2021-11-08

【政界】総裁選、衆院選で変化した自民党内の力学 岸田首相に“意外としたたか”との評価も

イラスト・山田紳



3Aにも温度差

 権力の重心が官邸から自民党に移ったのは、長く副総理兼財務相を務めてきた麻生太郎氏が岸田政権で党副総裁に就任したのも大きな要因だ。首相経験者が副総裁になるのは初めてで、党側の実権は麻生派の麻生と甘利が握った。

 麻生は当初、盟友関係にある安倍とともに菅の首相続投を支持していた。安倍が昨年8月に体調不良で突然退陣を表明し、菅に引き継いでもらった負い目があったからだ。しかし、菅政権は夏場以降、急激に失速。今年8月下旬の麻生派の会合で幹部らは「菅では衆院選を戦えない」と麻生に進言した。

 その後、菅は解散権と人事権を封じられて立ち往生し、総裁選への立候補を断念。麻生はすぐに「次は岸田」と思い定め、麻生派の河野から出馬を相談された際も「出るのは止めないが、勝つのは岸田だ」と諭したという。

 派閥として対応を一本化しなかった点では麻生派も二階派も同じだ。しかし、党役員の任期制限を提起した岸田を恨む二階と、岸田支持でぶれなかった麻生の明暗は大きく分かれた。

 高市を支援した安倍は岸田と河野による決選投票を想定し、「岸田・高市連合」を組ませて総裁選後も影響力を保持しようとした。その狙いは的中し、岸田政権では安倍、麻生、甘利の「3A」が復権した。ところが、「安倍・麻生支配」が強まるのを警戒した岸田が人事で巻き返しに出たことで風向きが微妙に変わる。

 今回の組閣の焦点だった官房長官人事で、安倍は側近の萩生田光一の起用を望んでいた。しかし、岸田と甘利は難色を示し、選んだのは萩生田と同じ細田派の松野博一。同派の前身の町村派が分裂選挙になった12年総裁選で、松野は勝った安倍ではなく当時会長だった町村信孝の推薦人を務めた。岸田がサプライズ的に総務会長に抜てきした福田達夫にしても、父で元首相の康夫と安倍はそりが合わない。こうしたことから安倍は人事に不満を持っているとされる。

 しかも、安倍が重視していた衆院群馬1区の公認問題は、細田派の尾身朝子が比例代表に転出し、二階派の中曽根康隆が比例から選挙区に回るという想定外の形で決着した。山口3区と同様、「現職」が小選挙区から押し出された格好だ。自民党関係者は「党の事前の調査で山口は林、群馬は中曽根が優位という結果が出た。議席獲得の可能性が高い方を公認したのだろう」と解説するが、安倍の意向はここでも軽んじられた。

 3Aにくさびを打ち込む意図が岸田にあったのかは定かでない。仮にそうなら岸田もなかなかしたたかだ。

 自民党では麻生派と岸田派が合流する「大宏池会」構想が取りざたされてきた。党内で2大派閥が切磋琢磨して疑似政権交代をしていくことが麻生のかねてからの持論。衆院選後、一足飛びに実現する環境にはないが、冒頭と別の閣僚経験者は「岸田と麻生は今後も連携していくだろう」と指摘する。

 麻生派の分裂を回避したことで、麻生には次の総裁候補として河野というカードが残った。河野は総裁選で敗れたものの衆院選の応援に引っ張りだこで、地方での人気は健在だ。一方、細田派では萩生田、松野、前経済再生担当相の西村康稔らの名前が挙が
るが、いずれも時期尚早の感がある。

 とはいえ、麻生・甘利ラインが盤石というわけでもない。総裁選直後に人事情報が次々に漏れ、甘利は「人事に口を出し過ぎている」と党内の不興を買った。野党は16年に浮上した甘利の「政治とカネ」の問題を蒸し返そうと狙っている。麻生は財務相在任中に比べてメディアへの露出は減りそうだが、それでも失言癖に懸念はつきまとう。

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