2021-11-12

新政権の成長政策、 分配政策はどうあるべきか?竹森俊平氏に聞く

竹森俊平・三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長

「前政権から引き継ぐ部分、そうでない部分をはっきりさせる必要がある」と指摘する、三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長の竹森俊平氏。政府の経済財政諮問会議、コロナ対策の基本的対処方針等諮問委員会にも関わってきた竹森氏は、脱炭素、デジタル化など、菅政権が打ち出した課題を継続するか、岸田政権の明確な発信がなければ民間企業の投資にも影響が及ぶと指摘。「成長と分配」を掲げる岸田政権の経済政策のポイントとは。

感染が収まることが経済再開につながる


 ─ 竹森さんは政府に新型コロナウイルス対策の提言をする「基本的対処方針等諮問委員会」の委員を務めていますね。コロナ禍は収束の兆しを見せていますが、まだ緊張感が求められると思います。改めて、感染抑制と経済活動の両立をどう図るべきだと考えますか。

 竹森 日本政府はコロナについて、リバウンドに気をつけながら感染対策に取り組んでいます。リバウンドがないとは言い切れませんが、足元では感染が抑えられている状態です。

 いろいろな要素がありますが、冬は気温が低く、空気が乾燥するなど感染症が広がりやすい季節です。一方、11月初旬段階でワクチン接種は国民全体の7割に達するかどうかという見通しです。接種率が7割に達すれば状況が変わってくるというのは、諸外国を見ていても明らかです。

 感染抑制と経済活動の両立について、取り組んでみてわかったことは、感染が収まらないと経済の再開もないということです。飲食店の方々と話しても「お酒を出せるのはありがたいが、これでまた感染が拡大しても……」と心配しておられます。

 感染が収まれば経済も再開できるということです。ですから感染抑制と経済再開は対立した問題とは考えていません。

 ─ 足元の状況を見ると収束の方向に向かっているように見えますが、第6波が来ることも想定した方がいいと?

 竹森 先日、分科会でも話が出たのですが、シンガポールのワクチン接種は8割に達しており、経済再開に踏み切ったら感染が拡大したという事例があります。ですから、今の日本のように段階的に進めていくことが賢明ではないかと思います。

 ─ 状況を見極めながら進めていくことが大事だということですね。改めて、岸田文雄政権ですが、「新しい資本主義」を掲げ「成長と分配」策を進めると言っています。新政権の経済政策の打ち出し方をどう見ていますか。

 竹森 「新しい資本主義」については、解散総選挙、年末の予算編成がありますから、少なくとも2カ月は「実装」することは困難に思えます。

 一方、菅義偉政権の時に、はっきり方向性を打ち出した政策があります。第1に「デジタル庁」設立に代表される日本のデジタル化推進です。地方自治体の情報システムの統一も打ち出しています。

 第2に「脱炭素」に向けて大きく踏み出したことです。特に再生可能エネルギーの比率を2030年までに高めることを謳いました。岸田政権が本当にこれらの政策を実行するのかどうかは、民間企業にとって大変な心配事です。例えば本格的に脱炭素化が進み、炭素排出に対してペナルティがかかる可能性を見据えて投資を考えている企業も多いと思います。

 ですから、前政権が公約したことについて、そのまま進めるのか、進めないのかについてははっきりさせる必要があるだろうと思います。

 ─ 政権としての意思を示す必要があるということですね。

 竹森 ええ。この政策の継続が岸田首相のメッセージに含まれているのか、いないのかがわかりにくいところがあります。また、選挙を考えて「分配」を強調しているのかもしれませんが、分配にもいろいろあります。

 例えば、定額給付金を配るというのは一時的なことですが、金融所得に対する課税を強化するとなると長期のことになります。これは国民が金融資産を、どう積み立てていくかという行動に影響します。

 岸田首相は金融所得課税の見直しについて「当面触れない」としていますが、いつかは出てくる議論なのかもしれません。ただ私は、多くの国民にとって株式投資など長期的な資産形成が必要だと考えています。国民の資産形成を阻害しないような政策を取ることを十分考慮すべきだと思います。

 ─ 岸田首相は当初、格差是正の観点で金融所得課税の強化を打ち出していましたが、やるのであれば一般層を考慮したものにする必要があると。

 竹森 今、長寿命化が進む中で老後にどう備えるかということが深刻な問題になっています。「老後2000万円問題」も記憶に新しいところです。金融所得課税は、この資産形成にも影響を及ぼすものですから、国民に警戒を与えないような政策を明示することが重要です。

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