2021-12-08

伝統の多角経営を進化【旭化成 ・小堀秀毅】の『3領域経営』と『GDP戦略』

旭化成社長 小堀秀毅



米中対立の中で日本の立ち位置

 世界の流れを見ると、2008年の世界的金融危機のリーマン・ショック以降、各国は量的金融緩和で経済を支えてきた。その金融緩和も今、転換期を迎えている。
 そして、世界経済の牽引役になってきた中国。その中国の存在感が高まり、その膨張主義を警戒する米国との間で対立が生まれた。いわゆる米中対立である。
 この米中デカップリング(分離、対立)について、小堀氏は、「これも当分続くだろうと。従来は一直線にグローバルな視点でよかったものが、それぞれの地域経済というものを考えなければいけなくなった。ブロック経済圏を考えなければいけないと」

 中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)、欧州、そしてアメリカを中心とした北米の大体4極に分類される地域割り。
 旭化成はこの4極に対応した地域本部を置き、米中デカップリング時代のグローバル化を進める。
 では、日本の立ち位置をどう考えるか?
「これは、経済と国防という2つの視点があるわけですけれども、やはり日本の立ち位置を明確にすべきだと。どちらかに依存ではなくて、日本はこういう考え方で動くんだよということで、中立的な立場で新しいものを生み出していく。ここはアメリカとうまくタイアップできる、この点では中国とうまくタイアップできるということをしっかり打ち出していくべきではないかと思います」

 日本は安全保障で米国と同盟を結び、中国とは2000年に及ぶ交流の歴史がある。
「また、米国、中国とも日本を重要な国と位置付け、(日本の力を)欲しがっている面がありますよね」

 米中双方のコーディネーターというか、橋渡し的役割が日本に求められているということ。

人の可能性を掘り起こすには?

 こうした世界の大きな変革の中、企業経営を進めていく上で、大事なこととは何かという命題。「自分たちの企業カルチャーをしっかり確保し、人材の育成、働き甲斐のある環境づくり。そして、それを事業に生かしていくことに尽きると思います。われわれは経営理念、バリュー(価値)、ビジョン(経営像)の3つをしっかり持つことが大事と言っておりますけれども、人的な事で言えば、常に誠実であり、挑戦をし、また新たなものをつくっていくという創造で臨んでいきたい。それが旭化成のカルチャーだと思っています」

 経営のマネジメント層にしろ、営業や生産を行う現場にしろ、それらを担うのは「人」である。その「人」の可能性を掘り起こそうと、同社は〝さん付け文化〟を大事にしてきた。
「これは、本当に創業(1922年)以来の伝統です。創業者の野口遵さんが社長のとき
に、工場をいろいろ回ったり、全国を回っているんですが、その時にもう、さん付けで自分を呼べと言っています」

 創業は1922年(大正11年)で、日本で初めて水電解の水素を利用するカザレー法でアンモニアを合成することに成功。合成肥料、合成繊維事業から出発したという歴史。戦前は朝鮮半島で化学工業を起こし、旧日本窒素グループをつくり上げた野口遵。戦後は宮崎・延岡を拠点に事業を構築。そして1946年(昭和21年)に商号を日窒化学工業から旭化成工業に変更(社名から工業を取り、旭化成になったのは2001年)。

〝さん付け文化〟は企業の成長・発展とどう関わるのか?
「途中入社の人にしても、来る人をしっかり受け入れる。お互いにリスペクト(尊敬)できるカルチャーにしたい。そういう意味では上司、部下の間でも断層があまりない。自由にものを言える闊達さというのがある意味ではカルチャーではないかと」

 お互いに議論し、意見を交換し合う。そして、将来目指すべき姿を共有することが重要で、それが、「旭化成の良さだと思っています」と小堀氏。
 そうした文化、伝統はどこから生まれたのか?
「これはやはり100年間、多角化経営をやってきた歴史がなせる技ではないかと」

 2019年には、同社の研究者、吉野彰氏(現名誉フェロー)がノーベル賞(化学部門)を受賞。
 ノーベル賞や科学・文化・スポーツ分野で顕著な業績を挙げた人に与えられる紫綬褒章の受賞者は計8人にのぼる。これは一企業の数として多い方に入る。
「これも、上司と部下の関係で自由に研究開発ができる雰囲気のなせる技なんだろうと思っています」と小堀氏。

時代の変化に対応して

 時代の変化に対応して、事業を構築してきた旭化成の歴史。
 かつて高度成長時代に同社は『食』の事業も展開した。戦後すぐの食糧難に対応し、生活を豊かにするために役立つ事業をということで、調味料の『旭味』や冷凍食品、焼酎といったものを手がけた時期がある。
 今、こうした『食』は他社に譲渡して、『衣』(繊維事業など)と『住』(住宅事業)の二大分野に事業を集約。さらに正確にいえば、マテリアル、住宅、ヘルスケアの3事業分野に集約される。
 今、コロナ危機に加えて、エネルギー転換、異常気象という世界共通の課題に直面。また製造業にとって痛いのは、半導体不足、石油やアルミなどの資源・エネルギー価格の上昇といった問題もある。さらには、日本は人口減・少子化・高齢化の流れで深刻な人手不足という課題を抱える。

 こうした流動的な状況下で大事なのは、「目指すべき社会に対して、やり続ける意志」と答える小堀氏。
『知行合一』が小堀氏の座右の銘である。

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本誌主幹 村田博文

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