2021-12-21

カップヌードル誕生から50年【日清食品HD・安藤宏基】の食は平和産業の視点で地球食の展開を

日清食品HD 安藤宏基社長・CEO

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「有事の時にお役に立てる、今の言葉でいえばレジリエンスを生かした事業構造だと思います」と日清食品ホールディングス社長・安藤宏基氏。阪神・淡路大震災や東日本大震災時に被災地に危機時の食料として無償提供。今や人々の生活に欠かせなくなったインスタントラーメン。年間の世界総需要は1166億食(2020年度)で、コロナ禍での“巣ごもり需要”としても注目された。これだけのロット(量)で売れる食品は他に例がない。創業者・安藤百福の掲げた開発5原則(おいしい、安全・衛生性、簡便性、保存性、廉価性)が世界のユーザーに浸透しての一大成長。1958年(昭和33年)の発売以来、インスタントラーメンは進化し続けてきた。
1971年には『カップヌードル』が米国由来のマクドナルドと共にファストフードとして登場。立って食べられる、フォークでもOKということで海外にも浸透、『地球食』というポジションを獲得。平常時に、消費者ニーズを掘り起こし、マーケティングや新製品開発に努力し続けることが有事に強くなる─という安藤氏の事業観である。
本誌主幹
文=村田 博文

【画像】知っておくべき!インスタントラーメン生みの親 安藤百福氏

コロナ危機下、世界需要は前年比で102億食の増加

 EARTH FOOD(アースフード、地球食)の代表格として年々成長─。
 インスタントラーメンの年間世界総需要は2020年度(2020年4年―2021年3月)に1166億食に達した。2019年度(1064億食)と比べて、1年間で何と102億食も増加(これは日清食品ホールディングスだけでなく、各メーカーの合算数字)。
 このうち、2020年度の日本の年間総需要は59億7000万食。前年度より3億4000万食増えて、史上最高の食数を記録した。

 これは、コロナ危機に入り、在宅勤務やリモートワークなど働き方改革が進み、巣ごもり需要が増えたことも関連する。
 グローバル市場に目を転ずると、中国が最大需要国で459億食、次いでインドネシア126・4億食、インド67・3億食、そして米国50 ・5億食、香港4・5億食となっている(いずれも2020年度)。
 麺文化の中国が14億人の人口と相まって、459億食と一番高い数字を示し、そのあとにアジア各国が続くのは分かるが、米国が50億食強とこれまた高い数字。米国市場での増え方からして、間もなく米国が日本を追い抜く勢いだ。

 注目されるのはインスタントラーメンが有事、危機時に頼りにされる食品になっているということだ。新型コロナ感染症がパンデミック(世界的大流行)となり、巣ごもり需要の代表食品として広く再認識されるようになった。危機時の食べ物としての簡便性が生かされているということである。
 インスタントラーメンの元祖といわれる同社が、『チキンラーメン』を世に出したのが1958年(昭和33年)で、63年が経つ。そして、フォークでも食べられるとして、一気に世界市場に浸透した『カップヌードル』が登場したのは1971年(昭和46年)のこと。

 食に国境はない、と言われるが、この『カップヌードル』は『EARTH FOOD』の代表格。1971年の発売から2021年はちょうど50年という節目の年である。
『カップヌードル』のこれまでの売上累計は500億食で、現在世界100以上の国・地域で販売されている。その小売額は約2000億円を誇る。国内だけでも2019年度に1000億円に到達。同社を支える重要な経営の柱である。

 同社がKPI(重要経営指標)に掲げる〝Billion Seller〟(ビリオン・セラー、10億ドル=1100億円強)。1つのブランドで国内、海外共に売上高が10億ドル=1100億円強を超えて、〝Double Billion Seller Brand〟(2つのビリオン・セラー・ブランド)になっているということ。

〝食〟は人の命、健康にとって不可欠なもの。インスタントラーメンが『国民食』となり、さらに世界中の消費者を相手にする『地球食』のステージにまで到達できたのは、同社が時代や環境変化に真摯に対応し、商品開発を進化させてきたからだと言えよう。

「あらゆる環境変化に対し、強い企業構造づくりを目指してきました。工場が壊れて供給ができなくなるまで、製品をお客様にお届けするんだという使命を果たしてきたし、これからもそうしていく。そういう事業構造になっているんだと思います」

 日清食品ホールディングス社長・CEO(グループ最高経営責任者)の安藤宏基氏は、同社が創業以来、変化対応の経営を実践する歴史だったと語る。
 そして、事業をいかに継続させていくかということで、BCP(事業継続計画)やSCM
(サプライ・チェーン・マネジメント)の整備に注力してきたことが、「有事に潜在力を発揮できる元になった」と強調する

 同社は、安藤氏の父・安藤百福(1910―2007)氏が1948年(昭和23年)に設立。
 安藤百福氏は起業家精神の旺盛な実業家。戦前、メリヤス貿易や養蚕、さらには共同経営で軍用機用エンジンの部品製造にも着手。戦後すぐは製塩業や交通技術の専門学校を開設するなど、いろいろな事業を手がけ、辛酸もなめた。
 失敗も味わったが、常に前向きな生き方。それこそ、七転八起の生き方を実践した安藤百福氏。その人生はNHKの連続テレビ小説『まんぷく』(2018年放映)となり、広く紹介された。

 その安藤百福氏がインスタントラーメンの開発に没頭し、七転八倒しながら2年余の歳月をかけて、遂に商品の本格販売にこぎつけられたのは1958年(昭和33年)のこと。百福氏自身は48歳のときであった。 起業家の出発としては遅いものだったが、本人は意気盛んで、事実、それから48年間、経営者人生に打ち込み、2007年、96歳の生涯を閉じた。

 そして事業は、息子の宏基氏(1947年10月生まれ)に受け継がれている。宏基氏は1985年春、37歳で社長に就任。
 1985年3月期(連結)の売上は1606億円。純利益は83億9000万円。それが2021年3月期(連結)は売上高5061億円、純利益408億2800万円(決算手法は2018円からIFRS=国際会計基準を適用しているので、多少計算が異なるが、数字そのもので見ると、売上で3倍強、純利益で約5倍の増加となっている)。

 コロナ禍にあって、消費者に頼りにされ、世界で102億食増え、1166億食も消費された。〝危機時に強い食料〟として、インスタントラーメンが見直されている。
 株式市場もそうした点を評価し、2020年6月、同社株の時価総額は1兆円を超えた(2021年11月19日現在は9079億円)。

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本誌主幹 村田 博文

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