2021-12-21

カップヌードル誕生から50年【日清食品HD・安藤宏基】の食は平和産業の視点で地球食の展開を

日清食品HD 安藤宏基社長・CEO

全ての画像を見る


『カップヌードルをぶっつぶせ!』

 父・百福氏がインスタントラーメンを世に送り出すまでの悪戦苦闘を小学生の頃に目の当たりにしてきた宏基氏。1985年6月、37歳で社長職を受け継いで、BCP(事業継続計画)を考える上で、創業者である父と幾度となくぶつかり合った。
 父の開発した『カップヌードル』が経営の大きな柱となり、高収益会社として存在感を高めてきたが、「一本柱に依存する経営ではいけない」として、新ジャンルや新製品の開拓に注力。

 その時の合言葉に、『カップヌードルをぶっつぶせ! 』を掲げた。次の柱、新しい有力商品の開拓に社内の目を向けさせる考えで、そうしたキャッチフレーズを内外に宣伝したのだが、百福氏は心持ち面白くない。
 考えようによっては、自身を否定されるような気持ちになったのであろうか、「そんなことで、お前を社長にしたのではない! 」と、経営の進め方で論争する場面も度々あった。

 もちろん、宏基氏自身は創業者である父・百福氏を大変尊敬し、その根本理念を受け継ごうとしている。
 宏基氏は、そうした思いと今後の同社の方向性を記すべく、『カップヌードルをぶっつぶせ! 』という著作を刊行(2010年初版)。この中の冒頭で、『創業者は異能の人、二代目は凡能の人。創業者と二代目の確執とは、異能と凡能とのせめぎ合いである』と述べている。

 起業家は、森羅万象の中から、これは社会の役に立つものだというヒラメキを感じ、消費者に喜んでもらえるという気付きを得る。そして、その発想を事業にしようとするのだが、事業として成り立つまでには技術、流通、宣伝といろいろな試練が待ち構えている。
 麵の中にスープを滲み込ませる─。百福氏のインスタントラーメンづくりは、この発想から始まった。
 しかし、小麦粉にはグルテンが含まれ、塩分が多いと切れてしまう。ぼそぼそになって、つながらない。それを何回も何回もやり直してと、まさにあきらめない氏の執念から、インスタントラーメンは生まれた。

 保存性を持たせるためには、スープを滲み込ませた麺を油で揚げる。いわば天ぷらの原理を応用したわけだが、これも試行錯誤が続いた。決してあきらめずに、挑戦し続けた結果、『チキンラーメン』が誕生したのである。

 なぜ、〝チキン〟だったのか?

 ブタ肉のスープであればイスラム世界で敬遠されるし、牛肉ではインドで敬遠される。チキンは世界共通の食材だということ。創業の時に、すでに世界を見据えた発想をしていたのだ。

 百福氏は、自らが開発した製法を特許として取得。しかし、インスタントラーメンの人気ぶりを見て、真似する人が続出。
 まぎらわしい商品名なども登場して、裁判沙汰になるケースも出た。しかし、百福氏は、「インスタントラーメンが世の中に広く知れ渡ればいい。問題は粗悪品がはびこると、みんなが失望して食べなくなることだ」として、特許を公開した。

 そして特許を自分の枠に閉じ込めずに、世の中に開放─。経営者としての度量の大きさがインスタントラーメンを社会に広め、引いてはEARTH FOOD(地球食)にまで押し上げていくことにつながった。

創業と守成はどちらが難しいのか?

 初代が興した事業を二代目として成長・発展させる─。安藤宏基氏は自らの使命をこう決め、具体的に実行していった。
 創業と守成はどちらがより難しいか?と問われても、正解というものはない。

 宏基氏は、その著作、『カップヌードルをぶっつぶせ! 』の中で、創業者を食らいついたら離さないスッポンとするならば、自分はモグラだとしている。
「インスタントラーメンという本業を、掘って、掘って、掘り続ける」という使命からのモグラ論だ。
 負けず嫌いのところは、親譲り。親を創業者として永遠に尊敬しながらも、二代目としての自らの使命と役割があるはずだとして、宏基氏は新しい経営の仕組みを考え出し、実行する。

「イノベーションとマーケティングを経営の両輪とする」─。各商品ブランドの〝社長〟
ということで、ブランドマネージャー(BM)をつくり、「企画から新発売まで、あるいは既存品の管理までの一連の仕事を任せた。責任と権限を持たせたということです」と宏基氏。
 マーケティング部をつくり、プロダクト・マネージャー制度を置いて、『U.F.O』、『どん兵衛』などのヒット商品が誕生。
 しかし、間もなくすると、見るべき技術革新や画期的な新製品が生まれなくなった。なぜ、
新製品が生まれにくくなっているのかを自問自答し続けた。

 ある時、カップ麵担当のマネージャーがつぶやく言葉にハッとさせられた。「新製品を発売すると、『カップヌードル』のシェアが食われます。会社全体の売上は増えるかもしれませんが、利益が減るので、営業も嫌がっています」という現場の声。
 カニバリ(Cannibalization)、つまり共食いが起きているという嘆きである。
 カップ麵のマネージャーは『カップヌードル』の売上と利益を最優先する。一方、袋麵のマネージャーは『チキンラーメン』を最優先して活動する。また、そうした方が、新製品に比べて利益も出るということだった。
 創業者が開発した商品を守らないといけないという考え。良く言えば責任感だが、守りの姿勢に入っているとも言える。
 新しいことに挑戦するという空気が薄れている。そのことに宏基氏はガク然とさせられた。「責任感といえば聞こえはいいが、突き詰めると保身。新製品を売らなくても、『カップヌードル』で稼げばいいと無意識にそう思っているのかもしれない」と宏基氏は社内改革を進めた。

 マーケティング組織の改革として、1990年(平成2年)、プロダクト・マネージャー制度から、ブランド・マネージャー制度に切り替えた。
 プロダクト・マネージャー制度では、1人のマネージャーが袋麵、カップ麵という大きなカテゴリーをそれぞれ担当。カップ麵にしても、タテ型(カップヌードル)、和風ドンブリ型(どん兵衛)、中華ドンブリ型(ラ王)などと細かいジャンルに分かれる。1人のマネージャーがいくつものジャンルを担当するのは無理だという判断だ。

 第1グループはカップヌードル、第2グループはどん兵衛とU.F.Oといったように、ブランドごとの管理体制に切り替えた。
 狙いは社内での開発競争を促し、カップヌードル1本体制からの脱却を図ることであった。
 要は、いかに新しい成長を図るか─。ブランド・マネージャーの合言葉は、「打倒カップ
ヌードル」になっていった。

〈編集部のおすすめ記事〉>>急増するサイバー攻撃にどう対処? 答える人 小池 敏弘・サイバーセキュリティクラウド社長兼CEO

本誌主幹 村田 博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事