2022-01-02

【新潮流】「ありがとう」が報酬に クラウド名刺管理・Sansanが資本業務提携するUniposの可能性

田中弦・Unipos社長CEO(左)、富岡圭・Sansan取締役執行役員CRO(右)


社内には「ドラマ」がある

「社員は一生懸命働いている。そこにはいろんなドラマがある。でも、経営者の僕のところまでは届かない。経営者が把握できていない社内のドラマはあるはずで、それを知りたいと思ったんです。それで『社内で頑張っている人に投票して下さい』とダンボールを置いて、感動した投稿の対象者に寿司をごちそうするようにしたら離職率も下がった。その話を経営者仲間にしたら『サービス化したら買うよ』と言われて作ったのが始まりです」

 Unipos社長CEOの田中弦(ゆずる)氏はサービスが生まれた経緯をこう語る。

Unipos

 田中氏は大学卒業後、1999年ソフトバンク入社。その後、ネットイヤーグループの創業に参画し、2005年ネットエイジグループ(現UNITED)の執行役員として広告事業を立ち上げ、現Uniposを設立した。

 ユニポスは、自らの問題意識から生まれたサービスだが、今もユニポスを通じて気付かされることがあるという。

「ユニポス事業に集中するため広告事業からの撤退を進めていますが、その作業をしんがりとして頑張っている社員がいる。会社の祖業である広告事業の売上がゼロになる瞬間は会社にとってすごく大事な瞬間。それが、しんがりの部下と上司のやりとりから見えてくるんです」

 ITの業界では海外で普及したサービスが日本に入ってくることが多い。だが、ユニポスは日本独自のサービスといえる。

「海外では1対1で1万円程度のスタバのカードを部下に送ったりすることがあるのですが、僕がやりたいのはちょっと違うなと。缶コーヒー1本の手軽な感じでやりとりして、全公開にする。すると、誰が何をやっているかがわかるようになってカルチャーが良くなるとか、バリューやミッションを共有しやすくなる。昔から、喫茶店での上司や部下とのやりとりはあって、すごく良いことを言われても、そのやりとりは、その場だけで消えてしまう。それは勿体ないなと思っていたんです」

 少額でも、金銭に関わるやりとりは人を動かす。そうして見えてくる社内の情報はマネジメントにも役に立つ。

「お金が介在すると、みんな真面目に書くんです。週に400円配られて、使わなかったら日曜日にはリセットされる。そうすると(使い切ろうと)帰りの電車で使ってくれる。週に400円、月に1600円渡すことで、会社の中で起きていることが見えてくるんです」とサービスの価値を熱く語る。

 ユニポスは日本発のユニークなサービス。だからこそ、競合が少ない今、祖業から撤退し、事業拡大にアクセルを踏む。

 その中で、もう1つ大きな決断をした。名刺管理大手Sansanとの新たな資本業務提携だ。

 提携の内容は、共同でのサービス提供を見据え、SansanがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業として培ってきた営業やマーケティングのノウハウでユニポス事業を拡大し、事業が成長したタイミングでUniposはSansanグループに入るというもの。

 また、Uniposの広告事業のノウハウをSansanのEight事業の広告で活かしていく。

「見たこともないサービスを社会実装した大先輩がSansan。見たこともないサービスという意味ではユニポスも同じ。Sansanの名刺管理サービスも『バインダーでいいですよね。わざわざスキャンするなんて面倒じゃないですか』と言われていたはず」と業務提携の意味を語る。

 Uniposに出資したSansan共同創業者で取締役CROの富岡圭氏も「組織として名刺管理しているところはなかったですし、名刺管理の予算を持っている会社なんて1社もなかった」と振り返り、「僕らも創業5~6年でマスマーケティングしながら事業を広げていった。そうしたマーケティングやカスタマーサクセスのノウハウを活用していく。僕らもいろんな失敗をしてきたので共有できることがあると思う」と語る。

 すでにエンジニアやデザイナーなど人材の交流も進んでいる。

「Sansanは『出会いからイノベーションを生み出す』がミッションですが、基本的には社外の人とのつながり、名刺に価値を見出していこうと。一方で、Uniposさんは社内のつながりやコミュニケーションが見えるサービス。そうなると、社外と社内の提案を打ち出していける。そこに可能性を感じている。両社とも、今までにない『新しい価値を見出していく』というカルチャーが似ているので両社が力を出し合うことで独自性もより強まっていくのではないか」(富岡氏)と期待する。

 今、ベンチャー業界ではSaaS企業が成長し、プラットフォーム化にしのぎを削る。Sansanも名刺管理だけでなく、名刺で培ったアナログをデジタルにする技術を活かして『Bill One(ビルワン)』というオンライン請求書事業を始めている。

 各社、強みを持つ領域は異なるが、事業拡大を進める中で領域が重なる部分も増えている。

 その意味では、SansanとUniposの資本業務提携からは、SaaS企業の生き残り合戦という様相も見えてくる。

 社会のあり方が変わる中、名刺管理、ピアボーナスという今までにない価値の提供で新しい時代のインフラ、スタンダードを作れるか。ユニポスの事業拡大は、新たな提案で組織を変えていく挑戦でもある。

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