いかに、強みを伸ばしていくか『両利き経営』の成果はどうか?
ガラスは今でも全売り上げの48%と半分近くを占める。
化学品事業の売上比率は32%だが、今では全体の利益の6割を稼ぎ出すまでに成長。ガラス、化学品部門共に自らの変革を実践してきたということだ。
この化学品部門の中で、フッ素を持っているのも同社の強み。フッ素樹脂は連続使用温度
で、摂氏260度まで耐えられるという耐熱性に優れ、ほとんどの薬品に使えるという耐薬品性、それに耐摩擦性、絶縁性など多くの優れた特徴を持つ。
調理での焦げ付きを防ぐために〝テフロン加工〟したフライパンなどの調理用品から、半導体、化学電子機械、そして医療など産業の最先端分野まで使われる素材である。
また、バイオ医薬品のCDMO(医薬品受託製造)もこれから伸びが期待される事業だ。
「日本の薬というのは合成医薬のいわゆる大衆薬が大半なんです。ところが、これから先の薬というのは、テーラーメイドで1人ひとりにフィットするような薬におそらく進化していく。最終的には、再生医療という所までいく。そういう意味からすると、バイオというのは非常に可能性のあるものだと。でも自分たちがやって来た所ではジャンプアップできなかった。それで買収先を探していたんです。それがうまくフィットして、買収(M&A)しました」
グループのバイオ関連事業会社の本社は、米国・ニューヨークに設置。ガバナンスを利かす上で、「この分野のトップを日本人がやると多分失敗します」と島村氏。グループ各社のガバナンス(統治)も進化し続ける。
新社名の『AGC』は、旭硝子の英語名の頭文字から取ったものだが、同時に、アドバンス(Advance、前進・進化した)、ガラス、ケミカル(Chemical、化学)、セラミック(Ceramic)の頭文字を取っているという。同社関係者の思いでもある。
変化の激しい時代こそ、創業の原点を見つめて島村氏の社長就任時(2015年)は、同社の業績が低迷していた時期。島村氏自身は化学品畑の出身。その化学品事業が年間60億円の赤字を出し続け、同社のお荷物扱いされてきた。
会社全体の流れで見ると、同社は2010年に史上最高の営業利益約2300億円を記録。これは当時液晶テレビの全盛期で、シャープなど液晶テレビメーカーが最高潮の時。それに伴って、AGC(当時は旭硝子)のガラス部門も絶好調で、史上最高益を計上した。
しかし、液晶テレビの人気はアッという間に退潮。韓国、中国などの新興勢力に液晶テレビのセットメーカーは駆逐され、それがAGCにも打撃となってハネ返ってきた。
実に、時代の変化、社会の移り変わりは激しい。
同社の業績も史上最高の営業利益(約2300億円)を出した4年後、営業利益は620億円にまで急落した。島村氏が社長に就任する直前である。
そのドン底から、いかにして這い上がるかという課題を背負っての島村氏の登場であった。
「創業の原点に立ち返ろう」─。島村氏は社長就任後にまず、こう社内に呼びかけた。
同社の創業者は岩崎俊彌(1881―1930)。三菱グループ創業者・岩崎彌太郎の次
弟・彌之助(旧三菱財団2代目)の次男である。長兄・小彌太は3代目・岩崎久彌(初代・
彌太郎の長男)の後を受けて4代目に就任している。
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