2022-01-15

国境なき時代の企業の舵取り─不確実性の時代をどう生き抜くか?【ファーストリテイリング・柳井正】の国も企業も危機感が無ければ変革できない

ファーストリテイリング会長兼社長 柳井正



海外、国内の消費動向は?

 ファーストリテイリングはグローバル企業。国内810店(2021年8月末)、海外は1502店と、すでに海外店舗数が国内店舗を上回り、全体の6割を占めるほどになっている。
 最近の業績拡大も、海外店の利益の伸びが堅調で、国内のそれを上回っている。
 21年8月期で見ると、海外ユニクロ事業の営業利益は前期比2・2倍の1112億円になった。国内ユニクロ事業の営業利益は1232億円と額では国内がまだ優位だが、海外の伸びは国内を上回る勢いだ。
 利益の伸びしろということでは、海外市場の方が大きい。

 国内の消費動向はどうか?
 既存店とEコマース(ネット通販)の21年11月度のデータでは、売上高が前年比で95・4%という数字。客数は100・9%で増えているが、客単価は94・5%とサイフのヒモが若干締められている様子が窺える。
 このため、消費者心理をどう読み、どう商品・販売計画を打っていくのかが大事になってくる。
 また、海外市場の中でも重要なポジションを占めるのが中国市場の動向だ。同社では海外店の半数を占めるのが中国だから、今後の同社の業績にも微妙に響いてくるという見方もある。

 こうした状況だが、柳井氏が打ち出す基本方針は明快だ。コロナ禍への対応を踏まえて、柳井氏はコロナ危機の今こそ、世界中の個人、そして企業が「力を合わせて、危機をチャンスに変え、より良い社会を実現するという前向きな発想を持つことが必要です」と語り、「大事なのは、具体的に行動を取るということです」と強調する。

中国とどう向き合うか?

 今、米中対立が深まり、22年2月の冬季北京五輪にまで陰に陽に影響が出始めている。
 選手団だけは送り、閣僚や政府関係者を北京に送り込まない、いわゆる〝外交ボイコット〟を行うという米国や英国、豪州などの動き。これには、英国と同じ欧州でも、仏伊などはボイコット路線に今のところ同調せず、独自のスタンスを取っている。
 対中国への政治的対応は多様だが、こうした動きが出てくる背景には中国の人権問題や〝民主主義対専制主義〟という価値観の違いがある。

 これに、最近は、『経済安全保障』というテーマが絡んでくる。半導体やAI(人工知能)やIoTから宇宙開発など、最先端技術の漏洩を防ぐということで、新たな対立軸が生まれる。
 一方で、経済取引では先述のように、貿易面などで米中両国ともに密接に絡み合う。
 現実に米国にとって中国は最大の貿易相手国。中国にとっても米国は同じ位置付けである。

 次世代のEV(電気自動車)づくりで先行する米テスラは中国で生産販売を行っており、主要な利益を挙げている。また、中国から米国に留学する学生数は今でも約37万人といわれ、世界各国の中でも最大だ。米中関係を見るには、多様な〝目〟や〝視座〟が必要である。
 政治的には対立し、経済では密接につながるという現実。

 こうした混迷状況の中で、経済人の役割とは何か?
「対立する理由はないでしょ。お互いにメリットがあるんですからね。やはり平和で安定した世界に持っていく。誰も対立したいとは思っていませんよ」
 柳井氏は、経済人は交流することに役割があると語る。

 そうした経済人の交流で、政治に影響は与えられるのか?
「まあ、政治に影響を与えるということは難しいかもしれないですけどね。国民の平和と安心・安全につなげられると」
 中長期的な視座の中で、日本が生き抜いていけるような生き方や国の運営が大事だ─という柳井氏の考えである。経済リーダーの使命と責任も重い。

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本誌主幹 村田博文

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