2022-01-15

国境なき時代の企業の舵取り─不確実性の時代をどう生き抜くか?【ファーストリテイリング・柳井正】の国も企業も危機感が無ければ変革できない

ファーストリテイリング会長兼社長 柳井正

「国も企業も、そしてどんな団体や組織であるにせよ、危機感がなければ変われないし、生き残っていけない」とファーストリテイリング会長兼社長・柳井正氏。コロナ危機が続く中、米中対立という政治的要因、異常気象など不確定要因もあり、状況は流動的。こういう時こそ、「自分たちの立ち位置と存在意義が問われる」と柳井氏は自分たちの使命を実践していこうと社員に呼びかける。思えば、1984年(昭和59年)、35歳で家業の洋品店を受け継ぎ、衣料(clothing)の世界に経営者として飛び込んだ時、掲げたのが“UNIQUE CLOTHING WAREHOUSE(ユニークな衣料)。そこからブランドも『UNIQLO』(ユニクロ)になる。世界に2つとないユニークなカジュアル衣料を創り、世界ナンバーワンを目指すという考え。出発地は郷里の山口県宇部市。「炭鉱でさびれた街からの出発で、成長するには外へ外へと、つまりグローバル世界を意識せざるを得なかった」と柳井氏。節目、節目で課題が現われたが、それを乗り越えるのは危機感であった。AI(人工知能)やIoTの時代を迎えての柳井氏の対応とは。
本誌主幹
文=村田 博文

≪柳井 正氏は昨年の財界賞≫【経営者のノーベル賞】令和3年度「財界賞」はYoutubeライブでオンライン配信

今、経済人や企業に求められる使命とは?

 デジタル革命(DX)、グリーン革命(GX)の真っ只中にあり、諸領域でいろいろな革命が進む。それにコロナ危機が絡まり、米中対立という国際政治要因や異常気象など自然界の不安定要素も重なる。
 こうした混沌とした状況下で経済人や企業に求められる使命と役割は何か?
「やはり会社とかブランドは多くの人に期待される存在だと思います。われわれは今、何を期待されているのかをよく考えて、その価値を創造していかないといけないのではないか」と、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は語る。

 自分たちのパーパス(存在意義)は何かという問いかけが今、全産業に広がる。環境激変の今こそ、「自分たちの立ち位置を明確に」という柳井氏の考え。
 ましてや、今はデジタル革命が進展し、GAFAなどのITプラットフォーマーがあらゆる産業とつながり始め、業種の垣根がなくなり始めた。

「境界がないし、どこの国から競合相手が来るか分からない時代」と柳井氏は語り、次のような認識を示す。
「やはり世界市場が同一としたら、これはいつも言っているんですけれど、種の法則みたいなものがあると。同一種は同じ圏内では1種類で十分だということ。ですから、自分の立ち位置をもっとはっきりさせ、どこで立っていくのかということを自分で定義した上で努力しないとやっていけないと思います」

 コロナ危機に世界が遭遇して約2年が経つ。コロナ禍は感染症を広げたが、いろいろな気付きをわたしたちに与えてくれた。生き方・働き方の変革もその1つである。
 変わらないのは、「われわれはこれまでにも増して積極的にグローバルに事業を展開し、グローバルNO・1のブランドを目指す」という柳井氏の考え。

 事実、同社のグローバルな投資はコロナ危機下でも続く。

 2021年9月16日には、パリのリヴォリ通りに、『服とアートの融合』をテーマにした『ユニクロリヴォリ通り店』を開店。付近にはルーブル美術館やパリ市庁舎があり、パリを代表するエリアでの試みである。

 今後の成長が期待されるアジア地域への投資にも積極的だ。10月8日に台湾・台北のグローバル旗艦店をリニューアルオープン。11月には中国・北京に初のグローバル旗艦店を出店した(北京三里屯〈サンリートン〉店)。さらに22年春にはロンドンのリージェントストリートに、『ユニクロ』と『セオリー』ブランドが同居する大型店をオープンさせるなど、攻めの経営に打って出ている。

 ロンドンは、日本育ちの『ユニクロ』が2001年、初めて海外進出した場所。柳井氏も、「新しい歴史を開きたい」と力を入れる。
 コロナ危機では同社も影響を受けた。コロナ禍1年目の2020年(令和2年)は国内の全店舗(約810店)のうち、ピーク時の4月には全体の4割に当たる310店以上が休業に追い込まれた。

 このことは20年8月期の業績に影響を与えた。
 同期は減収減益となり、売上高は2兆88億円(前年同期比12・3%減)、営業利益1493億円(同42・0%減)、純利益903億円(同44・4%減)と打撃を受けた。
 それが21年8月期は売上高が2兆1329億円(前年同期比6・2%増)、営業利益2490億円(同66・7%増)、純利益1698億円(同88・0%増)と大幅増となった。

 同社の事業は、『ユニクロ』を中心に、よりリーズナブルな価格帯を追求する『ジーユー』、
さらには米国発祥のブランド『セオリー』などがある。
 21年8月期にはユニクロ事業を中心に業績が回復。世界各地でワクチン接種が進み、新型コロナ感染症を抑制する効果が現われ、消費者の間にも買いたいものを買うという気運が現われ始めてきた。そうした消費者のニーズを同社はコロナ禍にあっても、すくい上げてきたと言えよう。

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本誌主幹 村田博文

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