2022-02-02

なぜ、野村ホールディングスは「非上場株投資」に力を入れているのか?

内藤慎治・野村スパークス・インベストメント会長(左)、茂木豊・同社長

個人投資家が「非上場企業」の成長を買う時代に─。野村ホールディングスが独立系投資顧問のスパークス・グループと共に「非上場株投資」戦略を進めている。野村ホールディングスグループCEOの奥田健太郎氏が掲げた「パブリックからプライベートへ」という新たな戦略の一環だが、日本の個人投資家にとって、新たな投資対象が生まれる可能性が出ている。

非上場ベンチャーの資金調達ニーズが強く


「非上場株式への投資は、企業、投資家双方から強いニーズがあった。それに応えることは金融グループとしての使命だと考えた」と話すのは、野村スパークス・インベストメント社長兼共同CEO(最高経営責任者)の茂木豊氏。

 2021年4月1日、野村ホールディングスは、独立系の上場投資顧問会社・スパークス・グループと51:49の持ち株比率で合弁会社・野村スパークス・インベストメントを設立した。

 野村HDでは20年5月、グループCEOの奥田健太郎氏が「パブリックからプライベートへ」という新たな経営戦略を掲げた。この「プライベート」という言葉には、より顧客1人ひとりのためにカスタマイズされた商品・サービスの提供と、「非上場企業領域」の開拓という大きく2つの意味を込めている。

 スパークス・グループとの合弁会社設立は、その戦略の具体化策の1つ。その背景には、日本の非上場ベンチャー企業の資金調達ニーズが高まっていることがある。

 そのため「成長資金を投資できる投資家も増加していくことが求められている」(茂木氏)が、これまで非上場企業への投資は機関投資家やファンドなど「プロ」の領域で、投資意欲を持つ個人投資家の投資機会は限定的。

 そこで、成長資金を求めるベンチャー企業など非上場企業と、投資意欲のある個人を含む投資家とをつなぐ存在が求められた。

 野村スパークス・インベストメントは現在、私募での運用を進めており、第1号案件は21年11月、「宇宙ごみ」除去サービスの開発に取り組むアストロスケールホールディングスへの投資。今後2、3年以内に投資法人を東京証券取引所の「ベンチャーファンド市場」に上場させ、そこに投資家の資金を集めて運用することを狙う。中長期的に1000億円の運用規模を目指す構想。

 これまでも非上場企業に対してはベンチャーキャピタル(VC)などが資金を供給してきたが、日本でもベンチャー企業の数と、彼らが必要とする資金の量が増加。この資金需要を支える投資家の層がより厚く、多くなる必要があった。

「世界的に金利低下で運用難となる中、成長があるところに資金が流れている。この流れは止められない。そして日本でも、優秀な若い人材がベンチャー企業に向かっている。これらの複合的変化が背景にある」と話すのは、野村スパークス・インベストメント会長兼共同CEOの内藤慎治氏。

 こうした変化の中、成長する非上場ベンチャー企業への資金循環を厚くし、「エコシステム(生態系)を大きくするためのユニークな組織体、商品が求められていると思う」(内藤氏)。

 これまでは非上場の時と上場後とでは投資家が違うことが多かったが、「非上場段階から、上場後も切れ目なく投資をすることができるようになるという意味で意義があるのではないか」と内藤氏。

 さらに米国では「ミドル」、「レイター」などと呼ばれる成長段階の非上場企業が調達できる資金のボリュームが非常に大きいが、日本ではこの層の資金が薄いという現状がある。その意味で、既存のVCなどと競合ではなく共存することが可能。

 いわばVCが育ててきた非上場企業が成長のアクセルを踏む時に、資金を供給する存在になるということ。「上場に近い段階で資金を入れ、上場を経て成長するところまで長きに渡って株主として伴走できる」(茂木氏)

 現時点で、前述の東証のベンチャーファンド市場には、まだ上場銘柄はなく、野村スパークスの投資法人が第1号になる可能性もある。

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