2022-02-08

日本商工会議所会頭・三村明夫の新・資本主義論「中小企業の果実は大企業に吸い取られている現実を」

日本商工会議所 三村 明夫会頭

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新しい資本主義とは何か?

 今、『新しい資本主義』の議論が活発である。岸田文雄首相は昨秋の政権発足後、『新しい資本主義』を標榜し、『成長と分配の好循環』を打ち出した。
 イノベーション(技術革新、経営創造)の力が欧米と比べて弱く、中国にも越され始めたという現状への危機感から、企業が研究開発や人的投資を推し進め、生産性向上を実現し、個人の所得アップも図るような社会づくりを目指すとする。そこで、岸田首相は自らが議長となり、内閣に『新しい資本主義実現会議』を設置したという経緯。

 委員は15人。この中に日商会頭の三村氏と共に経団連会長・十倉氏、経済同友会代表幹事・櫻田氏と経済3団体のトップが名を連ねる。
 この他、川邊健太郎氏(Zホールディングス社長)や、AI(人工知能)活用ソリューションの平野未来さん(シナモン社長CEO)などのIT関連経営者、クラウドファンディングで新しい資金調達を提供する米良はるかさん(READYFOR代表取締役CEO)も顔を並べる。
 また諏訪貴子さん(ダイヤ精機社長)や澤田拓子さん(塩野義製薬副社長)といった女性経営者も参加。
 それに2000年代、産業再生機構専務(業務執行最高責任者=COO)として、旧カネボウや旧ダイエーの再生を手がけた冨山和彦氏(経営共創基盤グループ会長)や日本のAIを引っ張る松尾豊氏(東京大学大学院教授)など学識関係者も加わり、多様な委員構成だ。

 昨年10月の岸田政権発足から年末までに3回、会議が開かれ、各委員からの提案をまとめている段階。
 例えば、人への投資が成長を促すといった提案。デジタルイノベーションの今、先進国の付加価値の源泉は有形資産から無形資産(ソフトウェア、知的財産など)に移行。人的資本への投資が成長を生むといった指摘だ。〝費用としての人件費〟から〝資産としての人材〟への投資を進めるべき─といった提案。
 三村氏は、『新しい資本主義』をどう考えるのか?

日本の将来に中小企業の生産性向上が必要!

「新しい資本主義とは何かはまだ分かりませんが、『分配』を強調するだけが新しい資本主義ではありません。ただ、新しい資本主義というキャッチフレーズで、今までの経済体制に欠けていたもの、新しく付け加えるべきもの、そうした事を皆が考え、提言しています」
 三村氏は『新しい資本主義』をめぐる議論が活発になっていること自体は意義があるとしながら、次のように力説する。

「1つはっきりしていることは、国民全体の生産性を引き上げなければ日本の将来はないということです。生産性を引き上げる上で大切なことは雇用の7割を担っている中小企業の生産性が引き上げられてこそ、日本全体の生産も上がるということです」
 三村氏が続ける。
「ややもすれば中小企業はかわいそうだ、弱い存在だ、助けなければいけないという議論になりがちです。そうではなく、日本全体の生産性向上には、中小企業の生産性向上は必須であり、そのために何をすべきなのか、そうした観点で具体的な方策を議論すべきだと思います」

 では、どう引き上げるのか?  
大企業と中小企業の取引では、その力関係から、中小企業の申し入れ値が大企業から買いたたかれやすいという現実。
 つまり、中小企業の価格転嫁力が弱く、これが中小企業の労働生産性の伸び悩み要因につながっているという三村氏の指摘である。

 2016年度から2018年度にかけての中小製造業の実質労働生産性は1・1%の上昇だが、価格転嫁力指標はマイナス2%強になっている。
 中小企業が大企業相手に製品やサービスを売る時、思うように言い値が通らず、相手から切り下げられているということ。
 これは古くて新しい命題。日本がデフレに入る90年代後半から、特に中小企業の価格転嫁力はマイナス幅が大きくなった。リーマン・ショック時(08年)は需要低迷に加え、この価格転嫁力喪失が中小企業を苦しめた。

「これまでも中小製造業の労働生産性の伸びは、実質で4~5%あったにもかかわらず、名目では1%程度の伸びに留まっています。つまり、中小企業が生産性を高める努力をしても大企業との取引価格に適切に反映されず、中小企業へしわ寄せされてきたことがあります。これは改善されなければいけない」と三村氏は強調。

 では、どう課題解決の道筋を描いていくのか?

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本誌主幹 村田博文

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