2022-02-08

日本商工会議所会頭・三村明夫の新・資本主義論「中小企業の果実は大企業に吸い取られている現実を」

日本商工会議所 三村 明夫会頭

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サプライチェーン全体で課題解決を!

「言い換えればコスト負担も価値創出もサプライチェーン全体でフェアに分かち合うということです。これを実現するために、日本商工会議所は政府とともに『パートナーシップ構築宣言』運動を進めています」
 大企業と取引先である中小企業はいわば運命共同体。大企業と中小企業が対立するのではなく、同じサプライチェーンに属する身として、コストアップ要因に対処し、付加価値創造(バリューアップ)を「共にやっていこう」という三村氏の訴え。

 そして、三村氏がもう1つ訴えたいことは、中小企業の労働分配率が75%から80%と、非常に高いということ。
 つまり、創出した付加価値から人件費に充てる分配率が非常に高い。「中小企業の労働分配率は75%から80%で、残る部分は20%から25%しかありません。さらにそのうち15%が利払いや租税公課などに充てられ、最終的には10%程度しか残らないのです。その中から配当や将来への投資を行うのは非常に厳しい」と三村氏は現状を語る。

 中小企業に対して、イノベーションへ向けての努力が足りないのではないかという指摘もある。このことをどう考えるか?
「東京商工会議所の調査では、中小企業のうち73%が事務改善、業務効率化を行い、30%が他企業を凌ぐ高いレベルでの事業変革に取り組んでいるという結果が明らかになりました」
 三村氏はこう答え、このコロナ禍の中で、21年度の所定内賃金の動向について「業績改善によって賃上げを実施した企業は11・1%、業績改善がみられないまま賃上げを実施した企業は30・3%です。合計で41・4%の企業が賃上げを実施している」と強調。
 中小企業も新しい世に合わせて、自らを変革し、体質強化をする時代。まず、自助、そしてサプライチェーン全体で課題解決をという三村氏の訴えである。

もう1つの課題のエネルギー確保は?

 今、日本の置かれた状況は厳しい。資源・エネルギー、食料、穀物価格の上昇で世界はインフレ状況。日本は円安で打撃をもろに受け、必要な資源・エネルギー、半導体をどう確保するかという課題に直面。何より原材料高騰を製品価格にどう転化していくか、状況は混乱含みだ。
 資源・エネルギーの確保には日本はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)を活用して進めるべきというのが三村氏の考え。
 2030年にCO2排出を46%削減(2013年度対比)する─という計画も唐突に出てきた感じで、コスト問題をどう捉えるのかの議論がなされていないことは産業界の懸念材料。

 化石燃料をぐんと減らし、再生可能エネルギーを倍増させる2030年時点でのエネルギーミックス。それはそれで2050年のカーボンニュートラル(CO2の実質排出ゼロ)へ向けての大きな1つの目標だが、エネルギーの安定供給(セキュリティ)やコスト面で、どう対応するのかという課題は残る。

「削減目標の達成ありきでエネルギーミックスを示したため、コストの議論が欠けています。再生エネルギーの比率を大幅に増やすことで、例えば各個人、家庭はどの程度のコスト負担になるのか、電気料金を始めエネルギーコストが高まれば産業界は国際競争力を維持できるのか。政府はこうした課題をまず洗い出して、丁寧に説明することが必要です。今までのCO2削減の議論では、多くの人にとってコスト負担は他人事でした。しかし、そんなことはあり得ません。必ず社会全体としてのコスト負担があるわけで、それをわかった上で『やろうじゃないか』ということであれば本物になっていくと思います。我々にも覚悟が必要だということです」

 大きな目標へ向けて、その移行過程(トランジション)をどうするかを皆で考えようと三村氏は訴える。

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本誌主幹 村田博文

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