2022-02-05

企業トップが年頭に発したメッセージから考えること【人気エコノミストの提言】

大手企業のトップが仕事始めにあたり社員などにメッセージを発信する「年頭所感」。報道される要旨を読んだ上でその年の特徴を探る作業を、筆者は毎年行っている。

 2021年の年頭所感では、「ポストコロナ(アフターコロナ)」という言葉が目立った。だが、そうした期待に反して、新型コロナウイルス危機はまだ終わっていない。

 代わって22年に年頭所感の中心テーマに躍り出た感があるのが、地球温暖化にブレーキをかける必要性が強く意識される中での「脱炭素化」「カーボンニュートラル」である。さらに、この先何が起こるかわからない不確実性の高さがあらためて意識される中、「想定外の出来事」への対応を求めるメッセージも見られた。

 例えば、ある自動車メーカーのトップは、「世界的に『カーボンニュートラル』が大きな課題となる中、今年は、脱炭素、生活の足・仕事の足を極めるために挑戦する年にしたい」と発言。また、ある化学メーカーでは、「カーボンニュートラルの実現、イノベーションエコシステムの強化、デジタル革新などの重要施策を実行していく」との抱負が聞かれた。

 一方、「新型コロナウイルスへの対応、半導体不足、原材料高騰など、引き続きさまざまな課題に直面しているが、悲観的な見方からは本当の解決策、対応策は出てこない。壁にぶつかった時こそ、それを乗り越える新しいアイデアやチャンスが生まれる」「前向きに、明るい未来を描きながら、想定外の出来事や変化を楽しむくらいの気持ちを持ち、この一年の仕事に取り組んでほしい」と述べた、ある機械メーカーのトップがいた。

 岸田文雄首相は今年の経済3団体新年祝賀会であいさつした際、「日本経済の局面転換に弾みをつけるためにも、賃上げに攻めの姿勢でご協力いただけるようお願いする」と発言。しっかりした幅の賃金引き上げによって「経済の好循環」を実現するよう、経済界に要請し続けている。だが、その程度の「分配」強化だけでは、将来不安や人口減・少子高齢化から個人消費が弱いという日本経済の大きな弱点に、変わりはあるまい。

 中長期的に考える場合、日本経済に最も必要なのは、人口動態を前向きな方向に変えていこうとする多面的な政策努力と、企業部門におけるイノベーションの強まりだろう。

 経済同友会が公表した年頭見解「日本の活路を切り拓く一年に」は、筆者も共感できる内容を含んでいた。特に印象に残ったのは、「日本の社会全体に、変化への抵抗や現状維持を是とする風潮が定着していることだ。その根底にある既得権や現在利益を手放すことへの恐れにまで踏み込まなければ、日本は『変われない国』のまま転落を続けてしまう」というくだりである。そうした風潮が変わるのかどうか。じっくり注視していきたい。

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