2022-02-22

【三井物産・安永竜夫会長】の新・商社論 不確実性の時代をアニマルスピリッツで!

三井物産 安永竜夫会長



〝失われた30年〟を脱出する好機に

〝失われた30年〟─。1989年(平成元年)、ベルリンの壁が崩れ、1991年に旧ソ連邦が崩壊、東欧と呼ばれた国々が市場経済になだれ込んできた。
 中国は当時の最高実力者・鄧小平の改革開放路線以来、成長路線を走り、2010年には日本を抜いて、世界2位の経済大国にのし上がり、いま米国2強時代を演出している。

 なぜ、日本は〝失われた30年〟という長期の停滞を招いたのか。
「日本は多様性を取り入れることへ消極的というか、あまりにも島国の中で同質性が強く、出る杭を打って、多様性の取り入れも遅い。ダイバーシティ・アンド・インクルージョンと言いながら、それをやろうとしていないんじゃないか」
 ダイバーシティ・アンド・インクルージョン(多様性と受容性)─。グローバルに仕事を展開していく上で欠かせない言葉。この言葉を使いながら、安永氏は、「受容性の高い日本人を育てるというのが、われわれの役割だと思っています」と商社の使命と役割に触れる。

 三井物産の社員数は連結で約4万5000人。うち日本人は約2万人で、海外に在籍する社員は全体の6割超になる。
「海外の事業現場は間違いなくハイブリッド。現地の人を最大限に生かしつつ、日本から行った人間がチームを作り、まさにインターナショナルチームでやっている」
 安永氏は「海外の現地は性別も宗教も国籍も関係なくやっている」と語り、「それをどう東京に持ち込むか」という課題が残っているという認識を示す。

 東京の本社社員(4400人)のうち、外国籍の社員は100人程度。今後、「日本人でない人が常に組織の中にいるという状況を作っていかなければ」と語る。

 ちなみに、役員構成は、取締役14人のうち、社内9人、社外5人という構成。
 社外取締役では小林いずみ(MIGA=世界銀行グループ多数国間投資保証機関元長官、みずほフィナンシャルグループ取締役会議長などを現在務める)、ジェニファー・ロジャーズ(Jenifer Rogers、弁護士)、サミュエル・ウォルシュ(SamuelWalsh、資源会社リオ・ティント元CEO)、内山田竹志(トヨタ自動車会長)、江川雅子(一橋大学大学院経営管理研究科特任教授)各氏という顔ぶれ。

 人の面でのダイバーシティ(多様性)を今後、グローバル経営にどう生かすかという課題。
 今、日本はもちろんのこと、世界中が直面する資源エネルギー価格の高騰問題がある。
 インフレ高進を抑えるべく、FRB(米連邦準備理事会)は政策金利の引き上げ実施を決定。日本銀行は現状変更を行わず、円が対ドルで相対的に安くなり、輸入コストの一層の上昇が懸念され、波乱含み。

 原材料コストが上がるのに製品価格や賃金は上がらず、〝悪いインフレ〟を招かないようにするにはどうすればいいのか。

資源高騰の軋みに…

「地球温暖化を食い止めることは、全産業界にとって大きなミッションです。ただ、今回のパンデミック(新型コロナ感染症の世界的大流行)と若干いき過ぎたグリーン化の流れが、既存のシステムを軋ませている感じがします」と安永氏。

 日本は1次産品、つまりは鉱物、木材などの資源や石油、LNG(液化天然ガス)などのエネルギーをほとんど輸入に依存している。輸入コストの上昇は、企業の調達コストにハネ返り、企業収益を圧迫する。

 そこで、調達コスト分を自分たちの製品価格に転嫁できればいいが、ライバルより先に値上げに踏み切れば、マーケットシェアで負かされるという懸念を抱え、値上げできずにいる状況。

 日本は2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするというカーボンニュートラル政策を、菅義偉政権時に打ち出した。
 世界も大方、同じ方向、同じ理念で動く。
 日本はその中間地点、2030年に2013年対比でCO2排出を46%削減するという中間目標を設定した。あと8年ほどの時間しかない。

 製鉄業あたりからは、この中間目標でも、「ハードルは高い」という声が漏れてくる。業種により影響度は違うが、この努力を怠る企業は今後生存しにくいのも事実。
 SDGs(人権や環境など国連が定めた合計17の持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、企業統治)の意識の高まりから、脱炭素の流れが加速する。
 既存の1次エネルギー、つまり、石炭はもとより石油やLNGへ投資しようとすると、反対のノロシが上がる。
 NPO(非営利活動法人)やNGO(非政府機関)からの猛反発だけでなく、最近は金融機関や保険会社も、そうしたプロジェクトへの融資や保険を控える。
 中間段階で、石油やLNGなど既存エネルギーも一定程度、産業活動や国民生活に必要とされる。しかし、現在でも供給面が追いつかなくなり、需給バランスが崩れて随所で軋みが頻発
するという状況。

 大手商社の2022年3月期決算が、コロナ危機の中で〝絶好調〟なのも、この資源エネルギー価格上昇による要因も大きい。
 同期の純利益(税引後利益)は伊藤忠商事、三菱商事が共に8200億円、そして三井物産は何と8400億円という見通しで、いずれも過去最高益だ。
 特に三井物産は前期(21年3月期)の純利益は3354億円であったから、2.5倍以上の増益という好決算になる。

 しかし、好決算だからといって、手放しで喜んではいられない。資源エネルギーの価格高騰には必ず反動が付いて回る。もともと市況商品であり、そうした反動を伴う苦汁を商社は嘗めてきた。
 だからこそ、資源エネルギー部門の相対的縮小という〝脱資源化〟を図ってきたという経緯がある。

 こうした軋みから、どう脱出していくか─。

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本誌主幹 村田博文

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