2020-12-31

「電動化への移行期における現実解はHV」トヨタが「全方位戦略」で見せる意地

「2030年代半ばにガソリン車の新車販売を禁じる─。これまで電動化の方向性が定まっていなかった日本政府が「脱
ガソリン車」を宣言した。東京都も追随する形となり、既にEV(電気自動車)化を国家戦略に掲げる欧州や中国と流れ
を一にした。内燃機関が不要となる電動化の流れに対し、トヨタ自動車はどう対峙していくのか。同社は日本の自動車産
業や雇用を抱えながらの変革を「全方位」で乗り切る構えだ。

2030年が電動化の〝境〟

「世界各地でエネルギー事情が異なるので、いろいろな電動化のメニューを持っている我々が選ばれるのではないか」─。トヨタ自動車の豊田章男氏は電動化に対する考え方を述べる。

 コロナ禍で新車販売台数が落ち込んでいる今でも自動車メーカーは頭を悩ませるが、さらに大きな波が到来する。「電動化」だ。従来のガソリン車やディーゼル車を販売できなくなり、EVや水素で走る燃料電池車(FCV)などを開発・販売していかねばならなくなる。

 既に英・仏などの欧米各国に加え、世界一の新車販売市場である中国などが2030年から50年にかけて「脱ガソリン車」を標榜しているが、この流れに歩調を合わせるように、日本政府や東京都も動き出した。

 自動車部品メーカーの首脳は「電動化の到来は分かっていた。ただ、充電器などのインフラ整備や価格の面でも、ガソリン車が一気にEVやFCVに置き代わることはない。それまでの移行期をどう凌ぎ、EV時代を迎えるかだ」と語る。

 政府や都が「脱ガソリン車」に向けた目標を掲げる中でポイントとなるのがハイブリッド車(HV)を「電動車」に含んでいる点だ。HVはトヨタの看板車種でもある。1997年にHV専用車である初代「プリウス」を発売して以来、累計1300万台のHVを世に出してきた。

 19年のトヨタの電動車の販売台数は約192万台で大半がHV。エンジンに電池とモーターを組み合わせ、〝ハイブリッド・エンジン〟という形で内燃機関を残す。内燃機関を磨き上げていくことで、他が真似ることが難しい〝模倣困難性〟を維持したのがトヨタのHV戦略だ。

 実際、今は無償で提供しているが、HV販売当初、トヨタはHVに関する関連特許を開放してこなかった。その結果、ライバルメーカーはHV戦略に舵を切ることができず、独フォルクスワーゲンなどはEVを主軸に置かざるを得なくなった。

 では、脱ガソリン車の規制が広がるまで、トヨタはどのような戦略を取るのか。時系列で見ると、30年が境になる。

 30年までの柱はやはりHVだ。執行役員の寺師茂樹氏が「電動化への移行期における現実解はHV」と語るように、同社は25年頃に全車種に電動モデルを設定し、世界で550万台の電動車を販売する目標を掲げる。このうち450万台はHVが占め、EVとFCVは100万台程度になると見込む。

 トヨタ幹部は「生ぬるい目標だと思われるかもしれない」と語る。しかし、トヨタが単年度のHV販売台数で100万台に至ったのは12年。それまで15年かかっている。そして20年経過した今の販売台数は前述の通り約200万台。今度は25年までの5年間で、過去20年間の倍のHVを生産する計算になる。

「雇用、技術、技能を守る!」

「歯を食いしばってでもHVを数多く売る」(同)ことが「将来の研究開発費を稼ぐ」(関係者)ことにつながる。同時に、マツダやSUBARU、スズキなどの出資先メーカーにHV技術を提供することで、「自分のやり方を活用してもらう〝仲間づくり〟がHVのデファクトスタンダードにつながる」(SBI証券企業調査部長の遠藤功治氏)。その結果、約37万人に上る従業員の雇用維持につながる。

 ただこう聞くと、「トヨタはHVしか売らない」と見えるが、そうではない。出遅れているように見えるEVも着々と準備している。同社の目論見では25年には現在主流のリチウムイオン電池よりも性能が高い「全個体電池」を搭載したEVが登場し、30年以降には「500~600万台はEVに置き代える体制を整えている」(関係者)。

 既にトヨタは自社開発の量産型EVや高級車「レクサス」のEVを中国で販売しており、国内では20年内に2人乗りの超小型EVが登場。21年にはSUVのEVを欧州で発売する。20年代前半までに10車種以上のEVを投入することを決めている。また、プラグインハイブリッド車(PHV)も投入する。

 さらに「究極のエコカー」と言われるFCV「ミライ」の2代目も投入。初代と異なり、「トラックや鉄道、船舶、産業用発電機などへの転用を前提としている」(チーフエンジニアの田中義和氏)。そのため、他のモビリティーにも水素のシステムが提供可能。水素関連の特許も開放しており、HVと同じように水素でもデファクトスタンダードを握るのがトヨタの狙いだ。

 トヨタはこの「全方位」戦略で電動化を乗り越えていく考えだが、3万点の部品から成るエンジン車がなくなり、約1・1万点の部品が不要になるEVが主流になれば、「トヨタや部品メーカーの雇用にも影響を及ぼす」(別の関係者)のも事実だ。

 その移行期にあっても、国内生産体制を維持することで「トヨタだけを守るのではなく、そこに連なる膨大なサプライチェーンとそこで働く人たちの雇用、日本の自動車産業の要素技術、それを支える技能を持った人材を守り抜く」とトヨタが持つ使命を豊田氏は語る。

 電動化が進めば価格の約3割を占める電池の確保が不可欠であることに加え、クルマの価値がハードからソフトに移り、IT企業が主導権を握る産業構造への変革も進む。また、中国がHVを優遇する政策を変える可能性もゼロではない。

 ただ、動力源がどのように変わるにせよ、「お客様に選ばれるクルマ」を世に出せるかどうかという原則に変わりはない。電動化の流れをつくる主導権を握れるか。トヨタが電動化の世界でもそういったクルマをつくれるかで、真骨頂が問われる。

新型FCV「ミライ」は1度の燃料充填で走れる航続距離を伸ばし、生産も年間最大約3万台と初代の約10倍にした(トヨタ提供)

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