2022-03-05

『禍福はあざなえる縄のごとし』危機にひるまず共生の道を【私の雑記帳】

禍福はあざなえる……


『禍福はあざなえる縄のごとし』─。災いと幸いは、縄のように絡み合い、お互いに表裏変転する喩えとして使われる言葉。

 正と負(プラスとマイナス)、陽と陰、明と暗といったように、わたしたちが住む世界は常にこの二極がないまぜになっている。

 コロナ禍というパンデミック(世界的大流行)をもたらした新型コロナウイルスは、100年に1度の感染症といわれる。感染症そのものは人類の歴史と共に存在し続けた。

 人類が誕生したのが800万年前。今の人間の先祖、ホモ・サピエンスがアフリカに登場したのが約20万年前といわれるが、ウイルスはもっと前から存在していた。

 西暦での2000年余の間だけでも、天然痘、ペスト、コレラ、最近ではエボラ出血熱などがある。

 ウイルスによる感染症はずっと存在し続けていて、「撲滅した」と宣言できるのは天然痘1つだけだという専門家もいる。

 人間はワクチンや治療薬を開発し、対応策を取ってきたのだが、歴史的には、〝ウイズ・コロナ(With Colona)〟ということなのであろう。

 人とウイルスは共生する歴史を辿ってきており、時々、通常以上に暴れるウイルスが登場する。

 それをわれわれは〝禍〟と呼ぶが、あれこれ知恵をしぼって、共生の道を探り、〝福〟の状態に持っていく。

 一陽来福─。陰が極まって、陽が訪れることを指す言葉だが、先人たちもそうやって生きてきた。コロナ危機にひるんではおられない。わたしたちも、ここはレジリエンス(回復力、耐力)の力が問われている。

グレート・ジャーニーを


 人類の起源のアフリカからユーラシア大陸へと、ホモ・サピエンスが移動し始めたのが約6万年前。地球が寒冷期にあった時の大移動で、人類的には『グレート・ジャーニー』とされる。

 自分たちが生存できる地を求めての、まさに遠大なる旅だが、それは新しい時代の創出でもあった。

 生存のための適地や条件を求め続ける旅。それはまさしくグレイト(Great)な行いであった。

 21世紀に入って20年余、今、〝グレート〟という言葉がよく使われるようになった。エネルギー業界でも、脱炭素の掛け声と共に再生可能エネルギーへシフトする動きを〝グレート・リセット〟と言ったりする。

 人の生き方・働き方の改革に際し、自分の生き方を今一度見直し、新しい旅に出る人が増え、〝大量退職者〟が生まれる時代を〝グレート・レジグネーション(GreatResignation)〟と呼ぶそうだが、いずれも、新しい時代の到来を人々が意識し続けているからだ。

櫻田謙悟さんの「新しい日本」


 どう、時代の転換期を生き抜くか?という命題である。

 経済同友会は、『コーポレートジャパン構想』を掲げる。

〝失われた30年〟などといわれる日本を再生し、今一度、活力ある日本にしていこうという構想。

 日本のGDP(国内総生産)が世界に占める比率は、1990年代は17%あったが、2021年には5%台と、ピーク時の3分の1に縮小。1人当たりのGDPでは、すでにシンガポールに抜かれ、韓国などからも、「あと数年で日本を追い抜く」とされる現状。

 ここは、まさに〝グレート・リセット〟が大事。

 経済同友会代表幹事の櫻田謙悟さんは、「とにかく、より良い状況にしていく。英語で表現すると、〝ビルド・バック・ベター(BuildBack Better)〟ですね。このウイズ・コロナの時代を生き抜くために、政府が新しい戦略を打ち出していく。僕ら経済人も経営者として、それを実行していく義務があると思っています」と語る。

必ず日本は蘇る!


 岸田文雄首相は、『新しい資本主義』を掲げるが、まだ成長戦略の具体像は見えない。

「必ず日本は蘇るんだということを、国民が自信を持って、あるいはこの国に住んでいる人が元気になるようなものにしていかねば」と櫻田さんはこう言って、次のように続ける。

「何よりも国民の幸せということを大事にする。経営でいえば、企業の価値は何かを徹底的に考えて行動する。株式市場で評価されている時価総額イコール企業の価値というだけではなく、もっと将来に向けて社会課題を解決するような生き方であり働き方。そういうものを含めた価値を評価するのが新しい資本主義だと思います」

『心の基軸』を取り戻そう


 大事なのは、『心の基軸』。戦後、日本はその大事なものを喪失し、引いては〝失われた30年〟に陥っている。

 こういう時代認識を背景に、寺島実郎さん(日本総合研究所会長、多摩大学学長)が『人間と宗教』(岩波書店)を刊行された。

 帯文には、〝戦後日本が築いた、経済最優先の『宗教なき社会』〟とある。

 寺島さん自身は宗教者ではない。三井物産の経営戦略畑を歩き、世界各地を駆け巡り、現地の人たちと向き合う中で、まず目を見開かされたのが、宗教が日常生活の中に融け込んでいるということだったという。

「欧米社会では、毎週日曜日に教会に行き、イスラム社会では1日5回の礼拝を欠かさない。宗教への関心なくしては、相手のビジネス関係者との対話が成り立たなかった」と商社パーソンとして世界を駆け回っていた頃のことを述懐する(インタビューを欄参照)。

大拙を支援した経済人


 古代オリエントで唯一の一神教だったユダヤ教。そのユダヤ教が基軸である旧約聖書を整備し始めたのが2500年前。

 ユダヤ教の一分派から生まれたキリスト教はローマ帝国の国教となり、世界宗教に飛躍していく。そして、7世紀にアラビア半島で突如湧き起こったイスラム教の歴史をひも解きながら、寺島さんは「生きるとは何か」という問いかけを、全篇を通じて行っている。そして、日本人の『心の基軸』とは何か、それを失いかけているのはなぜか?  という真摯な問いかけ。

 かつて、国際人・新渡戸稲造はベルギーの大学教授に、「日本人の心の拠り所は何か? 」と基軸を問われた時、咄嗟に答えが出なかったという。そして熟考の末、『義』、『勇』、『仁』、『礼』、『誠』、『名誉』の価値観を重んじる『武士道精神』にそれを見出した(著作はBUSHIDO : The Soul of Japan)。

 禅の鈴木大拙も日本の基軸を追求した思想家であり哲学者。その大拙を支援したのが、旧三井銀行の専務理事だった早川千吉郎や旧安宅産業の創業者、安宅弥吉。経済人の中にも、心の基軸を追求する人たちがいたということ。

 過去と未来をつなぐ現在を生きるわたしたちに、生きることの本質とは何かを問いかける『人間と宗教』だ。

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