2022-03-16

長門正貢・前日本郵政社長はウクライナ危機、米金融政策をどう見ているのか?

長門正貢・マッキンゼー・アンド・カンパニーシニア・アドバイザー



ロシアの動きに呼応して中国は動いてくるのか?


 ─ 今回の侵攻が世界の政治、経済に与える影響をどう見通していますか。

 長門 これは非常に読みづらいですね。これまでロシア、プーチン大統領は米国やNATO(北大西洋条約機構)と議論をしていましたが、これはある意味で「時間稼ぎ」と「アリバイ作り」で、自国の世論も睨みながら周到にウクライナへの侵攻を検討してきたのだと思います。

 今回の軍の規模や配置の場所を見てもそうですし、ウクライナ東部の2地域の「独立」を一方的に承認したことを見ても、最初から侵攻するつもりで準備してきたのでしょう。現在の状況はプーチン大統領のシナリオ通りなのではないでしょうか。

 これを受けて米国、NATOがどう動くのかが、今後の焦点になります。ロシアは国際平和、国際ルールを蹂躙していますし、14年の「クリミア併合」以上のことを今回、やろうとしていますから。ウクライナの首都・キエフを制圧し、支配下に置くことを目指していると見ています。

 ─ 世界の国々や企業への影響をどう見ますか。

 長門 ロシアに資産を持つ銀行や企業で痛手を被るところが出てくるでしょうし、サハリンで開発している天然ガスを巡って、様々な問題が起きる可能性もあります。また、確実に原油価格は高騰するでしょうし、それ以上に天然ガス価格が高騰して欧州は厳しい状況に置かれると思います。

 これらは世界経済に悪影響を与えますが、さらに大きな長期的戦争に発展しなければ、リスクは明確で読み切れると思います。ただ、米国やNATOがロシアに対抗して軍を出し、交戦した場合には、ウクライナだけの問題では終わらないことになります。

 また、この機に乗じて中国が台湾を侵攻するのではないかということも懸念されていますが、現時点でその可能性は低いと見ています。中国は10年単位で物事を考えていますから、今すぐに動くとは考えにくい。ただ、領有権を主張し、人工島を築いた南沙諸島の軍事拠点化を強化したり、尖閣諸島に絡む日本への牽制を強める可能性はあります。

 もはや米国だけでは世界の秩序は守りきれないと足元を見て、中国がロシアに呼応して米国の覇権を揺るがすような積極的なチャレンジをしてくると、米国の金融政策だけの話ではなくなります。ですからFRBも次の展開については、米政府とも協力していく必要があります。

 ─ 今回、改めてロシアの領土拡張の意思が明確に示された形になります。

 長門 ロシアもかつてのソビエト連邦と同じく、領土拡張の野心を持っていたということですね。しかも、それを外交で行うのではなく、軍事力を行使するということが今回、改めて明確になりました。

 経済的に見れば、ロシアのGDP(国内総生産)はカナダよりも小さいわけですが軍事力、核兵器を持っていることで大国としての立場を維持している。

 今回の侵攻が「100年の計」で考えた時に、ロシアにとっていい方法だったのかどうか。米国やNATO、その他周辺国を含め、改めてロシアのやり方は骨身に染みたと思いますし、賢いやり方ではなかったのではないかと思います。

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