2022-03-16

長門正貢・前日本郵政社長はウクライナ危機、米金融政策をどう見ているのか?

長門正貢・マッキンゼー・アンド・カンパニーシニア・アドバイザー



コロナと脱炭素がインフレ懸念の背景に


 ─ ロシアの侵攻以前から世界の株価は下落基調にありました。この背景は?

 長門 これまで金融緩和で余剰資金があり、世界でバブル的様相を呈していましたが、それが一部調整して下落しているということですが、背景にあったのはコロナとカーボンニュートラルというテーマだと思います。

 余剰資金という観点で言えば、昨年6月の統計で米国には17.1兆ドル、1ドル=100円で換算すると約1700兆円の預金残高があります。米国のエコノミストの試算では、このうちの2.5兆ドル、約250兆円が過剰預金となっています。昨年6月の統計ですから、今はさらに増えていると思います。

 これはなぜかというと、コロナ禍を受けて米国でも給付金を出していますが、もらってもみんな使い道がない上に、将来が不安だということで貯めてしまっているのです。

 ─ 非常に消費意欲が強いといわれる米国人が貯金をしてしまっていると。

 長門 ええ。これだけの過剰貯金があれば、しばらく働かなくても生きていけます。飲食店やホテルで働いているとクビになってしまいますから、貯金があるうちにもっといい仕事を探そうとしているわけです。

 今、米国の港湾で人手不足が言われていますし、船がなかなか入ってこないので物流も滞っています。半導体不足も続いています。これらはコロナの悪影響です。FRBもこの事態はわかっています。ただ、当初2、3カ月もすれば解消すると思っていたものが、もっと長くかかりそうな情勢になっています。

 ─ カーボンニュートラルも要因の1つだという意味は?

 長門 今、カーボンニュートラルの流れを受けて、石炭火力発電のプロジェクトには資金が付きにくくなっています。ただ、太陽光発電や風力発電だけでは電力はまかなえません。

 例えば昨年、常に強い風が吹くスペインでパタッと風が止まり、風力発電ができなくなりました。今後、世界中で同様の事態が起きる可能性が高い。中国などは改めて急遽、石炭火力にシフトしていますし、日本はLNGの輸入を増やすなど、エネルギーを巡って世界が混乱し、価格が高騰したわけです。

 エネルギー改革には時間がかかりますし、再生可能エネルギーは天候に左右されますから、安定的な電源の確保が重要になります。しかし日本では原子力の再稼働や新設の議論がしにくくなっています。

 このコロナの副作用とカーボンニュートラルがインフレ的状況の要因になっており、世界経済が大変脆弱な状態になっているところに、今回のウクライナ危機が起きた。今後、さらに大変な状況になる懸念もあります。

 各国の当局も迷うくらい前提条件が動いていて、しかも全てが深刻な懸念をはらんでいる。読み間違えたり、逆の手を打ってしまうと大変なことになる、難しい状況にあります。

 日本のバブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、そしてリーマンショック以上に難しい時期だと思います。

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