2022-03-16

長門正貢・前日本郵政社長はウクライナ危機、米金融政策をどう見ているのか?

長門正貢・マッキンゼー・アンド・カンパニーシニア・アドバイザー



「バブル経済」とは誰も気づかず…


 ─ 判断が難しいと思いますが、どのようなスタンスで臨むべきだと思いますか。

 長門 状況を必死に読んで、様々な意見を聞きながら、弾力的に動くことが大事だと思います。まさに「朝令暮改」で、一度言ったけれども、状況が変わったのでパッと変えるような「君子豹変す」の覚悟で取り組む必要があります。

 申し上げてきたようにウクライナ危機、コロナの悪影響、カーボンニュートラルは、それぞれ難しい問題ですが、今回、1つだけプラスの要素があるとすれば、リスクの所在がはっきりしていることです。

 ─ 長門さんは日本のバブル崩壊やアジア通貨危機、リーマンショックなど様々な危機を経験していますが、これらの危機では、どこにリスクがあるのかを、危機前時点では明確に把握できていなかったと。

 長門 そうです。例えばバブル崩壊の時には、日本ではそれ以前に危機について誰も指摘する人はいませんでした。

 例えば、日本興業銀行(現みずほ銀行)時代、同行は1986年に米国債専門の証券会社であるA.G.ランストンを買収しました。その会社のチーフエコノミスト、デービッド・ジョーンズを日本のメディアに使ってもらおうと紹介したところ、彼自身の能力の高さもあって日本でも活躍してくれました。

 88年、89年頃でしたが当時、デービッドをメディアだけでなく、大蔵省(現財務省)、日本銀行などにも紹介して回っていたのですが、当時の当局担当者は皆、日本経済には何の懸念も抱いていないと言っていました。

 当時は「皇居の土地を売ったらカリフォルニア州が買える」、「日本を売ったら米国が3個買える」と言われていました。今振り返ると明らかにおかしなことが言われていたのに、そのことを誰も変だと思っていなかった。しかしその時、デービッドは「こういう現象をバブルと言うんです」といったんです。

 ─ 米国には、すでに「バブル経済」ということへの危機意識があったと。

 長門 そうです。米国は1930年代の世界恐慌を経験していますから。しかし、当時の日本では「バブル」と言われても、ほとんどの人はそう思っていませんでしたし、横で聞いていた私も考えてもいませんでした。

 後に経験したアジア通貨危機の時も、興銀主催のセミナーで私達が「金利などがとても変で、何かが起こる懸念がある」と発言したら、タイ中央銀行からお叱りを受けたりしました。リーマンショックの時も、ほとんどの人は当時、大事件が発生するとは思っていなかったわけです。どの危機も、一部の識者が懸念を持っていただけで、それが多くの人に共有されてはいませんでした。

 しかし今回は、確かに問題は深刻ですが、そのリスクの所在は見えている。事件が起きたら大変ですが、みんなが危機意識を共有していますから、対応策については早く動くことができるのではないかと思っています。

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