2020-12-27

社会課題解決事業を開拓!東京建物が進める「食の集積地」戦略

東京建物が行った発表会の様子

コロナ禍で意識された「食糧安全保障」


 「当社が社会課題の解決を目的に設立された不動産会社だというアイデンティティに立ち返り、社会課題の解決と企業としての成長を高い次元で両立させる」と話すのは、東京建物取締役専務執行役員の福居賢悟氏。

 東京建物は自らが本社を置く東京・八重洲、隣接する京橋、日本橋に複数のビルを保有する他、今、それぞれのエリアで大規模大開発を手掛けている。八重洲は地上51階、約250㍍の超高層ビル、地下にバスターミナルを備える開発となる他、日本橋では日本橋川沿いで2つの大規模案件を推進中。

 街を再開発する時には、そのエリアに何らかの特色を持たせるべく工夫することが多い。例えば、東急及び東急不動産ホールディングスは、かつての「ビットバレー」以来、渋谷を「ベンチャーの集積地」とし、IT企業が本社を置く。

 また、三井不動産は日本橋再開発で江戸時代に薬種問屋が軒を連ねた歴史を生かし、「ライフサイエンス」の集積地とすべく取り組んでいる。

 そんな中、東京建物が街づくりで掲げたテーマは「食」。東京建物は20年2月、2030年頃を見据えた長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」を発表した。

 この実現に向けて「街の機能更新に加え、社会課題の解決に貢献していくという視点で活動を行う」(福居氏)ことを決めた。

 ではなぜ、社会課題の解決という時に「食」をテーマに選ぶことになったのか?

 「テーマ選びが社内で議論になった時、八重洲・京橋・日本橋エリアの歴史を振り返るところから始めた」(東京建物都市開発事業部・沢俊和氏)

 元々、日本橋には江戸時代初期から大正時代まで「魚河岸」、京橋には江戸時代から昭和の初めにかけて、青物市場「大根河岸」があった。魚河岸は関東大震災を機に、大根河岸は東京中央卸売市場の開設とともに、それぞれ築地に移転したが、300年近く、江戸・東京の食を支えてきた場所。

 その名残で、このエリアには老舗の料理店が多く軒を連ねる。創業200年以上が2店、100年以上が10店、60年以上が15店に上る。

 加えてサントリー食品インターナショナル、明治、味の素、国分グループ本社、三井製糖といった大手を含む食品関連企業が約150社立地するなど、実は元々「食の集積地」だった。

 また、「食糧安全保障」も問題意識にあった。日本では人口減少が問題となっているが、世界に目を転じれば増加傾向は続き、国連人口基金の予測によれば、2050年の世界人口は98億人に達する見込み。さらには気候変動も相まって、食料不足や水不足が懸念されている。

 世界では課題解決に向けて代替食品の開発、植物工場といったテクノロジーを活用した「フードテック」など「様々な方法で『食』の生産のアップデートが図られている」(沢氏)

 足元のコロナ禍も、食を確保することの重要性や安心・安全意識を高めることにつながった。「日本でも食は目の前に迫った課題。今の食生活、食文化が守れなくなる日も近づいていると認識した上で活動すべきではないかと考えた」(同)

世界的ネットワークと連携した活動も


 具体的に、東京建物はこれまで、19年2月に企業向けのテストキッチン、食関連イベントスペースの「キッチンスタジオスイバ」、同年9月には植物工場で最先端技術を持つプランテックス、レストランプロデュースを手掛けるケイオスとともに食の実証実験を行う「TOKYO FOOD LAB」を開設。

 TOKYO FOOD LABの1階には世界最先端の生産性を誇る植物工場を設置。ここで生産したレタスは「京橋レタス」と名付けられ、中央区のスーパーに納められている。

 さらに、これらの施設を活用して、大企業とスタートアップが連携して新規事業開発を行うオープンイノベーションプログラム「Food Tech Studio―Bites! 」も開始。大手では日清食品ホールディングス、大塚ホールディングス、伊藤園、不二製油グループ本社、ニチレイ、洋菓子のユーハイムが参加している。

 世界にも目を向けている。食の世界で世界最大級のグローバルネットワーク・プラットフォームを持つ団体「FutureFood」(イタリア)と連携し、食に関する社会課題を解決するための団体「FUTUREFOOD HUB IN JAPAN」を19年12月に設立。

 20年はコロナ禍でオンラインを中心に活動せざるを得なかったが、21年は活動を本格化。今後は農林水産省とも連携して21年9月に国連でFutureFoodが行う食料システム変革を訴えるイベントを支援したり、10月にイタリアで開催するG20で日本の食関連コンテンツを発信する方針。

 従来はビルを開発するというのが仕事だったが、東京建物は場を提供するというプロデューサー、企業同士をつなぐコーディネーターとしての役割を果たすという新たな仕事を生み出しつつある。

 「社会課題解決につながるような実験をしていく。街づくりではスマートシティとイノベーションエコシステムがきちんと回らないとエリアとしての価値は上がらない。その1つの機能として『食』のエコシステムをつくり上げたい」(福居氏)

 東京建物が進める戦略の成否は、これまで挙げた数々の取り組みで具体的な成果を生むことができるかにかかっている。八重洲・京橋・日本橋を新たな「食の集積地」にできるか。

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