2022-04-04

【関西財界セミナー】伝統精神の「三方よし」を新しい資本主義構築にどう生かすか?

昨年に続き、2度目のオンライン開催となった



1970年の大阪万博が残した課題とは


 折しも、25年には大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)が開催予定であるなど関西として「持続可能な未来社会」を世界に発信するチャンスが控える。

 その大阪・関西万博について議論をしたのが第1分科会。大阪は1970年に万博を開催した実績があり、議論に参加した経営者は、口々にその思い出、感動を口にした。

 だが同時に「70年万博の成功がなぜ、関西の成長に結びつかなかったのか? 」(りそな銀行副社長・岡橋達哉氏)という疑問も残った。

 当時、万博と、その前に開催された東京五輪を受けて、新幹線や高速道路などの交通インフラが整備され、国内移動の利便性が格段に向上。それを受けて、「大阪と東京の物理的、精神的距離が近くなったと同時に、確立されていた大阪経済圏から、大阪企業も東京シフトの意識が高まった」(岡橋氏)。万博が残したレガシーは日本全体を発展させたが、地域経済の活力は失われる結果となったという指摘。

 一方で京都企業のように、ユニークな企業があることも現実。その意味で、今度の大阪・関西万博はどのようなレガシーを残すか。関西にはヘルスケアやライフサイエンスで産学の強い基盤がある。さらには伝統的に技術、モノづくりに長けた企業が集積。ここから生まれた技術、サービスを日本全体の成長、関西の発展に生かす必要がある。

 そして、それを担う「人」の育成も重要。「万博を契機に大きな未来図を掲げて、持続可能な社会を築けるような多様な人材を育てていきたい」(三菱UFJ銀行会長・堀直樹氏)

 コロナを始め、現在のウクライナ危機など、企業は今、常に「グローバルリスク」に直面している。このリスクについて議論したのが第2分科会。

 議長を務めた伊藤忠商事副会長の鈴木善久氏は「地政学リスクに加え、ウイグルの人権問題、温暖化など環境問題、パンデミックを含む自然災害など、リスクはグローバルに、多岐にわたる。あるエコノミストは『世界はもはや、先のことは「予測不能」としか予測できない』と指摘している」と話し、現在の混沌とした状況を説明する。

 コロナ禍では、多くの企業が混乱を余儀なくされたが、パナソニック専務執行役員の宮部義幸氏は「我々はコロナ禍で多少の混乱はあったが、比較的回復してきている。だが今も、苦しい業界もある」と話す。

 パナソニックはコロナ禍の悪影響を受けたが、空調やホームアプライアンス(家電)、車載電池など、「中長期的な社会変化を捉えた事業」(宮部氏)がカバーして利益面では悪影響を最小限に食い止めた。22年3月期は前期比で増収増益の見通し。

 工場では、一時的に代替生産を迫られたところはあったが、コロナ感染拡大でサプライチェーンの見直しはなかった。これは11年の東日本大震災を受けて「購入先影響調査」を行ったことで調達がスムーズにいったという教訓がある。

 1964年に発生した「新潟地震」の際、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は「損害の大小は経営のあり方如何で変わってくる」と述べたという。この精神を今に生かす意味で宮部氏は「平時の『備え』と事象が発生した際の『瞬発力』が大事だというのが教訓」と話した。

 また、コロナ禍では出社が難しくなり、多くの企業が「テレワーク」に取り組んだ。大阪でAI(人工知能)などシステム開発に取り組む企業であるソプラ社長兼CEO(最高経営責任者)の白川基光氏は「コロナでは課題になったこともあったし、いいこともあった」と話す。

 いい面は、危機の中で先を見通して先進的な技術を研究したい企業や技術者が開発に協力してくれたこと。AI開発が場所を選ばないことも大きかった。

 その一方で「9割以上がテレワークとなる中、人を育てられなくなったし、社内の顔が見えなくなった」(白川氏)。

 同社はコロナ前、取引先から「社員の挨拶が素晴らしい」と褒められることが多かったという。同じくらいの技術力ならば、ソプラと取引したいと言われるなど、社員教育が浸透していた。しかし、「最近の若手に指導できなくなってきた。これは我々だけでなく、今後5年先、10年先の日本企業にどんな影響を及ぼすのか」と白川氏は懸念する。

 これは多くの経営者が抱える問題意識だろうし、まさに「グローバルリスク」の一つ。新たな生き方・働き方を企業、個人ともに模索していく必要がある。

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