2022-04-04

【関西財界セミナー】伝統精神の「三方よし」を新しい資本主義構築にどう生かすか?

昨年に続き、2度目のオンライン開催となった


「より安く」からいかに脱却するか?


 日本は生産性の低さが課題とされ、それが低成長が続く要因となっている。前述の岩井氏の指摘のように従業員の給与は上がらず、物価も低迷、デフレ状態が続いてきた。

 その中で日本企業はコストカットで「良いものをより安く」を追求してきたが、それが「安いニッポン」につながったという構造問題がある。この脱却について議論したのが第6分科会。

 日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は、これまでの日本企業の姿を「コストカットが正義であるという〝宗教〟」と表現。「平成は勃興する中国との価格競争だった。人件費抑制、円安、薄利多売で外需を保持したが、内需不振で日本は低成長に陥った。令和の繁栄は、円高と内需を拡大した先にある。そこに対応した企業が生き残っていく」(藻谷氏)

 ただ、企業としては、これまで進めてきた「より安く」から脱却することは容易ではない。その課題に向けて問題提起したのが法人向けクラウドサービス「cyzen」を開発・運営するレッドフォックス社長の別所宏恭氏。

「高く売る会社に変わるには、全社員に『高く売ることが正義である』と納得させることが重要」と別所氏。その意味で意識変革に向けた経営者の働きかけが重要だということ。

 また、三菱UFJ銀行前会長で特別顧問の園潔氏は「『より安く』という時に『品格のある安さ』が重要」と指摘する。

 さらに、ドイツ日本研究所所長のフランツ・ヴァルデンベルガー氏は「日本は90年代半ばから小さい国になった」として、この背景にある労働慣行の問題点を指摘。「日本の大企業ではインハウスキャリアがDNAとなっており、これを変えるのは容易ではない。市場ベースのシステムに移行するには、一括採用の習慣を放棄し、具体的な仕事のために雇う『ジョブ型採用』を検討する必要がある」とした。

 これに対し、住友理工元会長(現特別顧問)の西村義明氏は「少し前の日本の分析ではないか」と反論。多くの企業経営者が海外経験などを経てトップに就いているなど改革が進んでいるとして「ジョブ型も必要だと思うが、安易に導入するのではなく、メンバーシップ型、日本の特質をベースにして、自社の歴史などを踏まえて人材育成をしながら永続を考える体制も必要なのではないか」と話した。

 これ以外にも、多様性をテーマに議論した第4分科会、企業と従業員のサステナブル・エンゲージメントをテーマに議論した第5分科会などでもオンライン上でありながら、熱い論議が繰り広げられた。

 コロナ禍、そしてウクライナ危機で、日本人は改めて生き方・働き方を見つめ直すべき時に来ている。それだけに、この論議を広く日本の政治、経済に生かすための具体的行動が今後、さらに求められる。

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