2022-03-24

SMBC日興証券相場操縦事件の教訓 『稼ぐ人達』に組織が引きずられた理由

近藤雄一郎・SMBC日興証券社長

SMBC日興証券の幹部4人が東京地検特捜部に逮捕された。証券会社が「相場操縦」の疑いを持れるのは2008年以来のこと。市場の信頼を損ないかねない事態で、業界からは「あってはならないこと」という声が上がる。4人は容疑を否認しているが、そもそもなぜ、疑われるような事態になっているのか。そこに組織としての瑕疵はなかったのか─。

「持ち合い解消」の流れの中で…


「証券会社という立場であるにもかかわらず、市場の信頼を揺るがしかねない事態を引き起こしたことにつきまして社長として重く受け止めており、深く反省をしております」─こう話すのはSMBC日興証券社長の近藤雄一郎氏。

 2022年3月4日、大手証券会社、SMBC日興証券の専務執行役員でエクイティ本部本部長のヒル・トレボー・アロン容疑者ら幹部4人が東京地検特捜部に相場操縦(金融商品取引法違反)容疑で逮捕された。

 嫌疑がかけられているのは、同社が取り扱っている「ブロックオファー」という取引。これは上場企業がある程度のまとまった保有株を売却する際に使われるもの。証券会社が執行日当日の市場終値を基準に、一定の率を割り引いた価格で一旦買い取って、個人投資家など売却先を募って取引時間外に売却するというもの。

 企業は株価が下落するのを最小限に抑えることができ、個人投資家は市場よりも安く株を買えるというメリットがあり、国内外の証券会社が手掛けている。

 近年、このブロックオファーの件数は増加していた。要因と見られているのは、企業が進めている持ち合い株の解消。機関投資家からの圧力が強まっていることに加え、東京証券取引所の市場再編に伴い、流動株式比率を高める必要に迫られていることも背景にある。証券会社としてはこうした株式を個人投資家に販売できれば、投資の裾野が広がるという期待もあった。

 今回、SMBC日興証券が相場操縦を疑われている内容は次の通りだ。

 ブロックオファーを引き受けていた5つの銘柄について、立会時間終了直前に自己勘定で買付を入れていた行為が「違法な安定操作取引」(金商法159条3項)ではないかと疑われている。ただ、3月14日現在、逮捕された4人は「通常の業務の範囲内だった」として、容疑を否認している模様。

 SMBC日興証券は外部の弁護士で構成する調査委員会を設置し、事実関係の調査を進めているが、これまでの社内調査の中では「ブロックオファーに関して特に注視すべき審査事項などを徹底できておらず、ブロックオファー執行当日の自己勘定取引の公正性を担保するだけの十分な牽制力が発揮されているとは言い難い状況だった」(近藤氏)としている。

 ブロックオファーの価格が決まる時間帯に自己勘定による買付を入れる行為について近藤氏は「市場の公平性、公正性に疑問を生じさせる行動であることは明らかであり、行動規範に反する行為として控えるべきだった」と話す。

 この内部管理体制について、複数の業界関係者が「SMBC日興と他社とでは違う仕組みになっていると思う」と指摘。他社では、ブロックオファーを引き受けた部門と、株式売買を手掛ける部門との間では情報は共有されない仕組み。

 一方、SMBC日興証券では、ブロックオファーを引き受けている事実を執行日前日、多くの社員が情報として共有していた。ここで情報の「ファイアーウォール」が機能していなかったことは、管理体制の脆さの表れと言える。その意味で情報が遮断されていれば、そもそも疑わしい取引を手掛けることもできなかったはずだ。

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