2022-03-23

【経団連会長・十倉雅和】の「新・企業社会論」GAFAの物真似ではなく、日本は日本の生き方を

日本経済団体連合会 十倉雅和 会長

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国内への投資を!

 改めて、国という存在をどう捉えるべきなのか?
「国という存在は大事だと。日本は、われわれ日本国民のアイデンティティ(主体性、同一性)の元ですから」と十倉氏。
 では、その日本の活力をどう掘り起こしていくか?

「日本国をGDPで測るのを止めようという議論もあります。GDPばかりで測る必要はないということで、GNP(国民総生産)とか、パー・キャピタル(1人あたりGDP)で測ろうとか意見がある。それはそうですが、やはり日本の力とは何ぞやと言ったら、Gross Domestic Production、GDPですよ」

 つまり、国内の成長を図ることが大事という認識。
「日本国として成長しなければいけない。その日本が成長するには国内投資が足りないんです。日本の企業はみんな海外に行ったんです」
 この30年間で企業の投資行動はガラリと変わった。
 無資源国・日本国の運営、あるいは産業の運営としては、資源や材料を海外から日本に輸入し、それを加工、製品化し、海外へ輸出するというパターンが戦後長く続いた。また為替面では円安でドルを稼ぐ輸出戦略が功を奏した。



 2022年の今はどうか?
 円安では資源エネルギー、原材料価格の高騰に耐えられないという声が強い。円高になれば、原材料の輸入面でもメリットが出てくる。
 円高は悪くて、円安はいいという考え方も今は修正され始めた。その背景には、日本の産業界の投資行動の変化がある。

 日本は1990年代後半、人口減社会に突入、少子化・高齢化が進み、国内市場の伸びが期待できなくなると見込んだ企業は、成長の機会を海外に求め始めた。
 このコロナ危機で東証1部上場企業の中で約7割が増益、うち3割が史上最高益を達成しているのも、海外市場で成長し、配当や利子所得を受け取っているからである。
 確かに、今は海外から輸入する石油、天然ガスをはじめ原材料や食料の価格は軒並み高騰。訪日旅行客数も激減し、貿易収支が大幅に悪化している。

 しかし、海外への直接投資や証券投資は盛んで、第1次所得収支(利子や配当など)は大幅な黒字。この結果、2021年の経常収支は15兆4359億円の黒字になった。
 ただ、その経常収支黒字も前年比8%減と縮み始めている。
「利益の大半は海外から来ているんです。海外から受け取る配当や利子で経常収支はプラスとなり、黒字に貢献しているんですが、これをもう少し国内投資に向けないといけないです」

十倉氏が続ける。
「このサプライサイドを刺激する政策は、やはり菅前首相がカーボンニュートラルで期限を切ったのと、デジタル庁をつくって、デジタルトランスフォーメーションをやっていくことを決断されたことです。岸田首相はそれをさらに進めようとされている。経済政策の流れは連綿と続いているし、繋がっています」
 問題は、国民の所得をどう増やすかである。

原料高・製品安をどう是正していくか

 日本国内の成長を図っていく上で、〝個人消費〟をどう位置付けるかも大事な視点。
 欧米では、インフレで原材料の仕入価格が上がると、自らの製品価格引き上げにすぐ動く。
 これに対して、日本は同業者間の競争が激しく、製品値上げをすると、市場での販売競争に負けるとして、製品価格据え置きで踏ん張ろうとする。
〝原材料高・製品安〟ということに企業が泣かされてきたという歴史的経緯。つまり、新価格体系への移行が海外ほどスムーズにいかないという日本の国内事情である。

 しかし、これも徐々に改善されつつある。いいモノをそれなりの価格で売る。つまり付加価値の高い経営を実現しないと、ことに海外での競争に負けてしまいかねない。
「その点では、海外企業が付加価値の高いラグジュアリーを扱っていることは参考になりますね。人口が減り、モノの販売数自体は減っていく中で、日本企業も工夫の余地があります」

 そして、国民の所得が上がり、引いては消費行動も結果的に活性化することにつながるという意味で、賃上げも重要課題。
「われわれも賃上げをやろうと(会員企業に)呼びかけていますが、賃上げをしても貯蓄に向かい、消費に回らないという状況もあります。やはり、国民は先行きに不安を感じているんです」

 この〝不安〟はどこから来るのだろうか─。

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本誌主幹 村田博文

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