2022-03-23

【経団連会長・十倉雅和】の「新・企業社会論」GAFAの物真似ではなく、日本は日本の生き方を

日本経済団体連合会 十倉雅和 会長

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国民も企業も『不安』その不安をどう払拭?

「日本が人口減で推移していく中で、社会保障はどうなるのか?という不安ですね。社会保障にしても、現役世代が高齢者を肩車で支える図を見せられたりして、現役世代は不安を感じている。企業だって不安なんです。だから、そういう不安を払拭しなければいけない。いい方に回転すればうまく行くと思うんですけど。だから、そういう社会保障上の課題解消へ向けて、デジタリセーションも大いに寄与すると思います」

 年金、医療、介護、子ども教育・子育てなどへの給付、つまり社会保障給付費は計129.6兆円(2021年)にのぼる。 財源は、本人が負担する保険料が72兆円余。これだけでは給付は賄えないから、税金投入と政府の借金、そして資産収入で補うことになる。税金と借金は合わせて51兆円余という財源の内訳。

 国の一般会計で見ると、社会保障費用は歳出の3割を占め、他の政策経費を圧迫する要因となっている。
 現役世代(20歳―64歳)が支払う保険料で高齢者の受診費も賄うという趣旨の現行保険制度だが、このままでは行き詰る。
 現在、現役世代1.8人で65歳以上の高齢者1人を支える図式。これが、2060年になると、現役世代1人が高齢者1人を支える〝肩車〟方式になる。

 現役世代の負担はますます重くなる。高齢者の医療費負担引き上げや、現役世代の負担圧縮をどこまで進められるか。
 国と企業、そして国民との連携を進め、課題解決を図るための制度設計が求められている。



日本にスタートアップを増やすための仕組み作り

 付加価値を生み出す企業の責務も大きい。経済人はこのような時代の転換期に、どう行動していくべきなのか。
「だから、よく言われるスタートアップ(新興企業)とか、イノベーション(革新)とかが起こらないといけない」と十倉氏は語り、次のように続ける。

「平たい言葉で言えば、ファーストペンギンじゃないけど、何か新しい事をやろうとする、ファーストペンギン的な人をたくさん産むようにしなければ」
 日本の企業社会では、往々にして、ファーストペンギンを否定しがちではなかったか?
「ええ、それをやっていたらいけない。その失敗も経験として評価されるようなグッドルーザー(good loser)というか、良き失敗者、この2つが当たり前だと。それが日常茶飯事的に起こるというような所にまで持っていかないといけない」

 そういう方向へ、どうやって持っていくか?
「どれか1つやれば課題が解決するというわけではないので、トータルに日本社会全体で取り組んでいくことが大事」
 会社の中の人事制度や評価、そして雇用の仕組みと幅広い制度変更も伴うし、国や自治体のとの連携も必要になってくる。その意味でのトータル的な対応であり、変革である。
 例えば、産業の生産性向上に〝雇用の流動性〟も必要だといわれる。

 成長性のある事業分野には雇用の吸収力があり、意欲のある人はそうした成長分野への転職を考える。その移動の過程で賃金も引き上げられる。
 これまでの日本の雇用慣行では、「賃金を上げるより、まず雇用の安定が大事という考えが強かった」と十倉氏も振り返る。
 終身雇用、年功序列と戦後ずっと続いてきた雇用制度も変わりつつある。現に、本人の能力に応じて賃金も決まるジョブ型雇用も登場してきた。

 一方で、雇用の流動性が高まるということは、今の会社を辞めるということ。
「その雇用が移動する時のセキュリティをしっかりさせておく必要があります」と十倉氏。
 本人がスキルアップするための研修・訓練施設を公的にも充実させることの必要性。一定期間、職を離れざるを得ないが、そうした時の生活費の支給など社会インフラ整備も必要だ。

「本人がいい所に行くという流動性をいかに実現していくか。デンマークなど北欧の国々ではそれを実行していますね。そうした事を日本でも起こさないといけない」
 十倉氏はこう展望を語りつつ、「そういうことを起こそうと思ったら、高福祉・高負担み
たいな話になってくる。だから、どれか1つだけやれば済むという話ではなくて、トータルでやらないと」と訴える。
 ここは全体感、バランス感が大事だ。

 人事制度にしても、「一遍にジョブ型採用とか、一括採用廃止とか、そんな乱暴な事をやるのではなくて、やはり日本は日本に合ったやり方でやっていったらいいと思うんです」という考えである


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本誌主幹 村田博文

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