2月25日、国産初となる新型コロナ治療薬の承認申請を行った塩野義製薬。国産ワクチンの開発も急ピッチで進める塩野義だが、新薬の開発という従来の枠に捉われない感染症対策の仕組み作りも進めている。新型コロナで浮彫になった日本の感染症対策の問題点をどう解決しようとしているのか─。オールジャパンの危機管理能力が問われている。本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako「自分でできる」ワクチン接種「筋肉注射のワクチン開発を進めているが、痛みを伴わない粘膜免疫分野のワクチンを開発していきたいと、この分野で最も研究が進む千葉大学様と連携させていただいた」(手代木功塩野義製薬社長)
「総合感染症メーカー」として新型コロナの国産ワクチン、治療薬の開発を進める塩野義製薬が、新たな感染症対策に向け、様々な手を打っている。
2月10日には、千葉大学と連携。
「筋肉注射を3〜4週間おきに行うのは簡単なことではない。注射を伴わない自分でできる経鼻、経口ニーズはある」(手代木氏)とみて、千葉大学と新たなワクチン研究に取り組む。
千葉大学未来医療教育研究機構特任教授の清野宏氏は、今回の連携を次のように解説する。
「40年来の基礎研究で、呼吸器の粘膜には巧みな免疫機構が存在することがわかってきた。その仕組みを活用すれば、病原体の侵入と重症化を防ぐワクチンの開発につながる」
今回の連携で共同研究を進めるのが「粘膜ワクチン」。従来の「注射型ワクチン」は抗原を体内に注入し、免疫をつけることで重症化を防ぐが、呼吸器感染症を引き起こす病原体の侵入は鼻やのどなどの粘膜からで、感染そのものを防ぐことはできない。
だが、「粘膜ワクチン」は重症化の防止に加え、呼吸器の粘膜免疫システムを活用して病原体の侵入も防ぐことが期待できる。
清野氏いわく「注射型ワクチンは免疫という警察官を家の中に配備はするが、家の玄関や窓のカギがかかっていない状態。粘膜ワクチンは家の中に警察官を配備し、さらに玄関や窓にカギをかける状態ができる」わけだ。
さらに「注射器・注射針が不要で精神的な不安の軽減につながる。また、点鼻薬ということを踏まえると、自分で接種できるワクチン。医療従事者を確保しなくてもワクチンを接種できる可能性もある」(清野氏)。
▶【ペットのにおい問題】を解決する「森林研究」 メリットの多い粘膜ワクチンだが「鼻水というかたちで垂れてきたり、鼻水には分解酵素がある他、鼻が脳に近い」など開発には課題もある。
そこで、その課題を乗り越えようと、千葉大は京都大学工学部と創薬ベンチャーのHanaVax(本社・東京)と経鼻ワクチンデリバリーシステムを共同開発。「カチオン化ナノゲル」内にワクチン抗原を封入して、経鼻投与する手法を開発した。
動物実験では投与後12時間、鼻腔粘膜に付着、「抗原を免役細胞に渡し、免疫システムが動き出す」ことを確認している。
この技術を実用化させるため、塩野義製薬と千葉大は産学連携で「粘膜ワクチン共同研究部門」を設置。千葉大学病院の臨床研究に応用可能な施設「コロナワクチンセンター」と塩野義製薬の感染症領域の研究開発ノウハウや製剤化技術を結集させ、経鼻投与ワクチンの開発を急ぐ。
抗原も「今は1つ1つデザインしているが、色々な抗原を1つのデザインでカバーできる『ユニバーサル抗原』の開発にもチャレンジする」(手代木氏)。