2022-04-06

【ヒューリック会長・ 西浦三郎】の危機管理学オフィス賃貸に加え、介護、 学童保育に注力する理由とは

ヒューリック会長 西浦 三郎氏

全ての画像を見る
「環境が厳しい時に頑張れる人」─。ヒューリック会長・西浦三郎氏が社長時代、新卒採用の面接で応募者の学生から「社長はどんな人を採用したいんですか」と問われた時の返事。厳しい局面で踏ん張れる人物を育てていくという思いは、当時も今も変わらない。コロナ危機の発生から2年余が経った。そして今、ロシアによるウクライナ侵攻と世界の環境は激変。経営上の危機管理をどう策定し、それをどう実行していくか。「駅から5分以内」をキャッチフレーズに物件を所有し、オフィス、商業ビルの賃貸管理で急成長。2008年の東証1部上場以来、増収増益、増配を記録するヒューリック。過去、リーマン・ショック、東日本大震災に直面しながら、同社は成長。そして今、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻という環境激変の中で、オフィス需要はどうなるのか。西浦氏が掲げる危機管理経営とは―。

本誌主幹
文=村田 博文

【画像】「再生可能エネルギー100%」を目指す。ヒューリックの小水力発電設備(群馬県川場村)

『想定外』の事態にどう手を打つか?

「わたしが来てからも、リーマン・ショック、東日本大震災、それから今回のコロナ危機と金融危機や自然災害が起きています。環境問題だったり、地震や噴火だったり、次々と問題が起きています。そうした問題や危機にどう対応していくか。また、会社の組織内部で問題が起きないように、内部統制をどう進めていくかという事も大事」

 今は、予期していないことが、ある日突然起きる環境激変の時。当面の経営課題に注力しながら、サステナブル(持続可能)な経営を実行していくには、「危機管理が重要テーマになる」とヒューリック会長・西浦三郎氏は語る。

 高収益経営で知られるヒューリック。同社は2008年に東証1部に株式を上場。以来、増収増益、増配を重ねている。
 不動産分野では三井不動産、三菱地所、住友不動産の旧財閥系大手デベロッパーに次ぐポジションを固めつつある。
 西浦氏は旧富士銀行(現みずほフィナンシャルグループ)の出身。2006年4月、みずほ銀行副頭取から、ヒューリック(当時の社名は日本橋興業)社長に転じた。

 銀行の支店があるビルの賃貸・管理業務から同社を脱皮させ、今日のヒューリックに育て上げた中興の祖。

「成長性、収益性、生産性、安全性」─。この4つを高いレベルでバランスをとっていくのが西浦氏の経営である。
 扱う物件や投資対象は、都心の銀座、新宿東口など4つの地区に集中させ、物件を買収するかどうかの判定は2日以内というスピード。

 最近は、決算対策上、手持ちの不動産を売却したいという依頼も急激に増えている。
 旧財閥系に比べて、大規模ビル・不動産の取り扱いは少なく、中規模クラスが多いとされる同社だが、2021年末に、東京・汐留にある電通ビルの買収を決めて話題を呼んだ(買収額は約3000億円で、近年の不動産売買では最高額)。

 こうして注目を浴びるヒューリックが掲げるのは『3Kビジネス』。〝高齢者・健康、観光、環境〟の3領域に今後注力していく方針だ。
 すでに介護事業の領域に参入しており、約4000人の収容が可能。同社自体が直接、介護事業を手がけるのではなく、ビルや建物を開発し、そこに介護事業者がテナントとして入るという仕組み。

 3Kの中で唯一、観光部門が赤字となっている。
 東京の浅草ビューホテルも同社グループの一員。今回のコロナ禍でホテル事業は需要が激減した。インバウンド(訪日)客が蒸発し、厳しい状況が続く。

 半面、新しい気付きもある。それは高級旅館への需要が非常に根強いことだ。
「今年1月26日に、『ふふ箱根』を強羅でオープンしたんですけれども、ずうっと満室。39部屋あるんですが、満室です」
 熟年・高年齢の富裕層が客層かというと、それだけではなく、若いIT系の経営者や小さな子供連れの世代もいる。
 一概にコロナ危機下だから、宿泊業は不振とは言えないようだ。要は、厳しい環境の下で、
お客のニーズを汲み取り、いかにしてそのニーズに応えていくかということ。

「今は、やはり海外に行けないので、そういう人たちが高級旅館に来てくれています」
 高級旅館は現在9カ所で運営。2023年に軽井沢(長野)に2か所、2024年に城ケ島(神奈川)に1カ所、2026年には都内・銀座にもオープンする予定。
 これらの高級旅館は、東京から1時間半位でアクセスできるエリアに設けていく計画。
 関西では、京都と奈良に1カ所ずつオープンする計画があり、ポスト・コロナをにらみ、「古都を訪ねたい」という客のニーズをつかんでの高級旅館事業である。このように、同じ観光事業でも投資にメリハリを付けていく考えだ。

 西浦氏が同社の経営に携わって16年が経つ。
 リーマン・ショック、東日本大震災、そしてコロナ危機を経験してきた中で、経営の存続を考えた場合、必要なのは中長期視点と、危機管理経営には「コストがかかる」ということ。
 ただ、「コストをかけて、ちゃんと手を打っていくということが、結果的にコストが安くつくかもしれない」という西浦氏の認識。

 実際、想定外の事態が続く。ことに東日本大震災(2011年)の発生以来、想定外への備えが重要視されるようになった。
 コロナ禍も100年に1度位に起きるパンデミック(世界的大流行)といわれる。
 要は、そうした想定外の危機がいつ起こるのか分からない状況の中で、経営をどうやって持続的に運営していくかということである。

 このコロナ危機で感じたことは何か?
「この2年間はコロナの直撃を受けて、ホテル事業は約80億円位やられているわけです。年間の損益ということではね。しかし、(2021年12月期では)経常利益で1000億円を超えていると。苦しい時に頑張れるということが社員の身に付いてきたのかなと」
 社員の踏ん張りに感謝すると同時に、コロナ危機のような事態では、自分たちが何をしなければいけないかを認識し、課題解決へ向かっていることに経営者として、手応えを感じるという西浦氏である。

〈編集部のおすすめ記事〉>>【ウクライナ侵攻】識者はどう見る? 日本総合研究所会長・寺島実郎

本誌主幹 村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事