事業に必要な再エネを自分たちで創り出す! 西浦氏は先述のように、2006年みずほ銀行副頭取からヒューリック社長に転じた。社長を2016年3月まで務め、会長に就任。
西浦氏は社長になって、社名を『日本橋興業』から『ヒューリック』に変更した。
ヒューリックはアルファベット表記でHULIC。経営の主体であるHUMAN(人)とLIFE(生命)とCREATE(創造)を掛け合わせた造語。人が伸び伸びと創造性のある仕事をする会社という意味を込めた社名だ。
そうした経営理念の下、コロナ危機下でも、増収増益を実現したということだが、環境は
刻々と変化する。
社長時代は、新入社員採用試験の最終面接に立ち会ってきた。
最終面接に残った学生たちに、これからのヒューリックの経営ビジョンと経営方針を説明した後、「大学名も個人名も一切言わないで質問していいよ」と告げた。
その中で、「社長はどんな人を採用したいんですか? 」と質問する学生がいた。
「環境がいいときは、誰でも調子よくやれる。やはり環境が厳しいとき、苦しいときに頑張れる人に来て欲しい」─。こういう趣旨の話を西浦氏は学生たちに話した。
もちろん、経営者としては、次の時代をにらんで手を打っていく。ことに危機管理となる
と、コストもかかり、投資費用も高くなる。
環境に関しては、「2024年までに『RE100』を実現する」としている。
『RE100』とは、自分たちの事業で使用する電力は「再生可能エネルギー(Renewable
Energy)100%にする」という世界的な動きだ。
2050年にCO2(二酸化炭素)の排出を実質ゼロにする─と日本政府は世界に約束した。2030年までにCO2排出を2013年対比で46%削減するという〝中間目標〟も設定。
こうした目標に向かって、再生可能エネルギー(水力、太陽光、風力や地熱発電など)を外から買って賄うこともできる。
しかし、同社の場合は自らが「小水力発電や太陽光発電を手がける」というもの。そして小売電気事業の子会社も設立。
すでに太陽光発電は埼玉県加須市で稼働させており、2021年秋には小水力発電が群馬県利根郡で稼働し始めた。
「これらの再生可能エネルギーを、うちみたいなところで数百億円投資しなければならないんです」と西浦氏。
本来ならば、数百億円を不動産物件への投資に向けた方が、短期的に利益が得られたかもしれない。
しかし、地球全体の生態系の破壊や気候変動を生み出しているのは、人の活動、産業活動での温暖化ガス排出が大きな要因とされる中で、RE100運動が登場したという現実。同社も国際的な協働イニシアチブである『RE100』に加盟した。
数百億円の投資をかけて、自らエネルギーを創り出そうという同社の決断。
ちなみに、RE100に取り組み、実行しているのは、世界で300社超。今年2月中旬現在、日本では65社となっており、米国に次いで世界2位になっている。
震度7に耐えられるオフィスや住宅棟を 日本は世界有数の地震国。その中でオフィス、住宅を提供するヒューリックは、「2030年までに震度7に耐えられるようにしていく」計画を進行中。
現在ある約260棟のビルの4割は築10年以内の建物。これについては、「建築基準法の
1・25倍から1・5倍の耐震強度で建てている」と西浦氏。
さらに100棟を今後、再開発や建て替えで震度7規模に耐えられる建物にしていくという方針。今後30年以内に首都直下型地震や南海トラフ地震などが起こり得ると言われていることへの備えである。
とにかく、変化の激しい今、『安心・安全』を確保するには、先手先手で危機に対する手立てを打っていこうという西浦氏の考え。
今後10年で100棟を建て替えるということについても、「実際は工事期間を考えると、
6~7年間で100棟を固めないといけない」とスピードある実行で臨むと言う。
現状でも、建築基準法に則っているわけだが、さらに建て替え、改修を図り、「たとえ震度7規模の地震が起きたとしても、痛手を受けないような形にしていきたい」と西浦氏。
そのためには地盤の調査も重要として、大手地質調査会社に依頼して、地盤の徹底調査を実施している。ビルが建つ地盤を1つひとつ調査し、結果的に建築基準法の何倍かの強度の建物にしていこうということ。
そうやって将来来るべき危機に備え、「仮に東日本大震災級の地震が来ても、当社の財務は問題ない状態にしていきたい」という計画である。
危機管理にはコストがかかるが、結果的にはその方が、コストが安くなるという西浦氏の考えだ。
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