2022-04-06

【ヒューリック会長・ 西浦三郎】の危機管理学オフィス賃貸に加え、介護、 学童保育に注力する理由とは

ヒューリック会長 西浦 三郎氏

全ての画像を見る


高齢化の中で介護領域にも進出

 今回のコロナ危機、あるいは人口減、少子化・高齢化という人口動態の流れの中で、今後のオフィス需要はどう動くのか?
 5年に1回の割合で行われる国勢調査。前回の調査(2020年)を踏まえて、西浦氏が語る。「これから労働力人口は減っていくと。この前の国勢調査で(前回より)233万人位減っているわけですね。このままで行くと、次の次の国勢調査では、労働力人口は多分、700万人から800万人減ると思うんですね。ただ、定年延長とかもあって、そこまで行くかどうか分からない部分もありますけれども、本当にオフィス需要も変わっていく」

 労働力人口が減っていく中で、オフィス需要はどうなるのかという中長期展望の中で、自
分たちの事業構造をどう捉え直していくか。
 西浦氏がヒューリック(当時の社名は日本橋興業)の社長に就任した時のオフィス事業の比率は85%。全事業の大半を占めていた。
 それが今では約55%の比率にまで下げている。それをさらに、2029年までに、「50%まで下げる」という計画。
 それだけ、新しい事業の開拓を積極的に進めているということ。データセンターの建設もそうだし、少子化・高齢化時代に対応して、子ども教育事業や介護分野にも注力する。

 例えば介護領域では、介護施設(老人ホーム)を建て、実際の介護業務は専門事業者が担うという形式で参入。建物の所有者はヒューリック、その建物の介護専門の事業者がテナントとして入る方式である。
 現在、約4000人の入居者数だが、「今、4カ所で新築を進めています。毎年4カ所位ずつ増やしていきたい」と西浦氏。

 介護業界も介護士不足の状態が続く。入居者の世話をする、つまり介護する人が足りないという現状をどう克服するかという課題。そこで、同社はベンチャー企業に投資し、介護業務の生産性を上げる仕組み作りを推進している。
 被介護者が体を1回でも動かせば、その動きを室内に設けられたセンサーが即時にキャッチ。「そうすれば、介護者が2時間に1回は見回りしなければいけないという負担が減ります。オムツ替えにしても、大変な労力が求められるわけで、このシステムは非常に重宝がられています」

 体を動かせなくなった入居者の場合には、膀胱の所にセンサーを付けて、そこが溜まっ
てくれば介護士が駆けつけるというようなノウハウも蓄積されていく。
「介護領域では、利益をあげるというよりも、まず命に係わる問題がないかどうかを確認することが一番ですからね。サービス向上に向けて、いろいろ実験をやっています」と介護ノウハウの蓄積に懸命だ。
 人がいなくても仕事ができるとか、また生産性を上げていくという点で、物流関連やデータセンターなどの業務も増えていきそうだ。

学童保育、学習塾経営の分野にも布石

 労働力人口が減る中で、共働き家庭は増えている。こうした流れの中、同社は子ども教育分野にもすでに進出している。
 心身の健全な発達のためには、小さい時に運動と勉強を一緒にすることが大切という考えから、コナミスポーツ(親会社はコナミホールディングス)、リソー教育の両社と提携。ヒューリックが開発し所有すビル内に、コナミスポーツの施設やリソー教育の教室が入居。コナミスポーツとリソー教育双方で送迎バスを運用するなどの相乗効果も生んでいる。

 先述の共働き家庭が増えていることに伴い、学童保育へのニーズも増加。
 両親とも働き、子どもの面倒をなかなか見られないという状況下、小さい子どもを預かる施設の存在も必要だ。
 学童保育や学習塾の業界について、「この世界は年商20億円から30億円という会社が非常に多いんです」と西浦氏は分析。

 人口減、少子化が進行する中で、これらの会社全てが生き残れるということはあり得ない。
 再編機運も高まる中、子ども教育分野にも足がかりを作ろうという事業方針だ。

〈編集部のおすすめ記事〉>>【三井物産・安永竜夫会長】の新・商社論 不確実性の時代をアニマルスピリッツで!

本誌主幹 村田博文

Pick up注目の記事

Related関連記事

Ranking人気記事