2022-04-19

【サイバーエージェント・藤田晋】の事業観『何が起きてもの気持ちで、しかし思い詰めずに』

サイバーエージェント社長 藤田 晋氏

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グローバル展開へ、峰岸真澄氏の手腕に学ぶ

 創業から25年目、サイバーエージェントも新しいステージを迎えている。
 ゲームの世界も、投資金額がケタ外れに以前より大きくなり、グローバル市場でヒット作が生めるかどうかが試される。「グローバルに当てたら、もうケタが変わってくる。われわれももちろん狙っていますけど、これといったヒットはまだ出せてないですね」
 グローバル市場の開拓はこれからの課題だ。

 経営のグローバル化で参考になる例として、藤田氏が挙げるのがリクルートホールディングス。「僕はリクルート出身の会社で働いたこともあるし、組織の作り方とかも影響を受けているので、リクルートの成長の軌跡というのは、大いに参考にさせてもらっています」

 どういう点が参考になるのか?
「かつての企業イメージと全く裏腹なんですけど、いま技術力とグローバル経営で会社を伸ばしていることですね。これほど変身できる会社って、なかなかないですよね。国内の市場だけでほぼ100%売り上げを立てていたところへ、峰岸さん(真澄氏、現リクルートホールディングス会長、1964年生まれ)がCEO(最高経営責任者)になられて、こんなにも変えられるんだというのは、勇気づけられますね」

 リクルートホールディングスは1963年(昭和38年)の設立。創業者・江副浩正氏(1936年生まれ、故人)が就職情報誌の『企業への招待』(リクルートブックの前身)を発行したのが事業の始まり。
「広く言うと出版社からの出発。いま大手出版社は軒並み苦しんでいると思いますが、リクルートだけが結果的に成長している」という藤田氏の分析。

 これも、時代の変化に対応したからということか?
「もう明らかに変革していますよ。今の事業はある種、紙のメディアを否定するようなサービスですから。自らを変え、M&A(合併・買収)もやってのけてきた。自ら拡大していますよね」
 リクルートホールディングスは求人情報検索エンジンの米『インディード』を買収し、いま海外事業の売上高は全体の45%にまで急上昇。
 同社の売上高は2023年3月期で2兆7000億円、営業利益3500億円、純利益2585億円という見通し。

「峰岸さんは自己宣伝しない人ですが、本当の中興の祖だと思います」と藤田氏。
 リクルート社も危機をくぐり抜けてきた企業。かつてのリクルート社は1990年代、子会社である不動産会社の負債増に苦しんだ。それに足を取られて、一時期、流通のダイエー(その後イオングループ系列になる)の傘下に入った。
 しかし、その後、リクルート社は本業(人材サービス)で利益を出し、自力で負債を返済、ダイエー傘下から離れた。逆にダイエーはその後業績不振に陥り、イオングループに取り込まれた。

 峰岸氏は社長在任(2012―2021)中に、グローバル展開の基礎を構築。現社長・出木場久征氏(1975年生まれ)は米テキサス州・オースティンから経営の采配を振るう。

〝経営のカタチ〟はどんどん変わっていく。

 今後、サイバーエージェントがグローバル市場での展開に注力していくとして、日本の立ち位置はどうなのか?
「日本のマーケットは中途半端に大きいとも言えるので、それで皆ドメスティックになって、国際競争で負けてしまうという状況になっていると思うんです。これからどうグローバル市場と国内市場のバランスを取っていくかをじっくり考えていきたい」
 まだ本格的にグローバル進出を手がける状況ではないが、グローバル展開をしていくためにも、「やはりメディアサービスを当てないと」と藤田氏は『ABEMA』事業を何とか軌道に乗せていきたいとホゾを固める。

人材をどう育てていくか

 今後、同社は人材育成をどう進めていくのか?
『就職学生の人気企業ランキング』調査の総合ランキングを見ると、サイバーエージェントは某調査で『28位』となるなど、理系、文系を問わず人気が高い。
 大学新卒者で同社を志望する人材の水準も上昇。藤田氏はユーモアを交えて、「いま活躍中で、昔からいる社員もいま受けたら受からなさそうだし、僕自身も大学生の時に受けたら、受からなそうだなと。でも、そうした選考状況でいいのかなという気もしています」と語る。

 人材募集で各企業の採用担当者が頭を痛めるのも、「特異な発想の持ち主で変わった人を採りたいと思っても、それはほとんど成功しない」ということ。
 ユニークな人材が欲しい─と思っても、結局は各企業とも早く内定を出したい人材、欲しい人材は似たような結果になっているという現状。

 藤田氏の目から見て、活躍している人材とは、どういうタイプなのか?
「学生時代の評価なんか大して当てにならないですけど、どちらかというと、確率が高いのは、就職活動の時もいろいろな会社から高く評価されている人。そうした人のほうが活躍するケースが多いですね」

では、そうやって獲得した人材の可能性をどう掘り起こすか。また、経営者の考えや企業人としての使命感を浸透させるトップダウンと、現場からの提案を上げていくボトムアップとの関係はどうあるべきなのか?
「ABEMA だけはかなり細部まで入り込んでトップダウンをやっていますが、会社全体としてはかなり任せてしまっている」
 技術革新のスピードが速く、迅速な意思決定で各現場も行動しなければならず、会社全体としては〝現場に任せる〟のが基調ということ。

 ただ、サイバーエージェントグループの将来を決めるメディア事業の『ABEMA』はトップダウンでやるということである。
 2016年に『ABEMA』がテレビ朝日との提携で事業を出発させた時、テレビ朝日・早河洋氏は『ABEMA』へ送り出す社員たちに、「すべて藤田社長の指示に従うように」と言い渡している。
 それ位、関係者は『ABEMA』の将来に賭けているということである。
 もっとも、藤田氏は、「逆に、社外取締役でいま入ってくれている元ネスレ日本社長の高岡浩三さんなどは、そんなに僕が強い指示を出していないので、ビックリしたと言う位ですけどね(笑)」とも話すが、要はバランス感だ。

 ただ、藤田氏もトップとしての時間の8割を『ABEMA』の采配に割いてきたのは事実。
 事業開始から6年経ったいま、「これを5割以内に落として、サイバーエージェントグループ全体の舵取りに使うことを最近決めました」と語る。『ABEMA』の経営で一定の成
果をあげるようになったという藤田氏の判断である。その時々で、トップの時間の振り分けも決まるということ。

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本誌主幹 村田博文

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