2022-04-28

【のど薬・のど飴の「龍角散」】藤井隆太社長が語る”インバウンド激減の中での次の一手”

藤井隆太・龍角散社長



「神薬」と呼ばれて大ヒット

 訪日観光客向けの販売を開始すると、一気に注文数が増加。工場は昼夜運転しないと生産が追い付かない状況になりました。当初は設備投資が間に合わず、人海戦術で対応せざるを得ませんでしたが、いつまでもそのようなことはできません。インバウンド売上のお陰で工場の設備は一気に近代化。生産能力も拡大しましたが、長期間にわたる昼夜運転を続けたことで、設備の償却も進み、今では工場の生産ラインは低コストで万全の構えになっています。

 そして訪日観光客が年間3000万人を突破した18年になると、SNSなどで当社の商品が拡散していきます。SNSで「神薬」として発信されたことは何よりも大きかったです。SNSで拡散されると、今度は中国の検索サイト「百度」での検索ワードにも「龍角散」というワードが急上昇していきました。他にも中国の新聞社から転職してきた当社の社員のアイデアで中国のSNS「WeChat」を通じて当社の商品について発信するといった広告戦略も講じました。

 まさに「爆買い」が続きました。しかし医薬品は対面販売が原則です。メーカーにとって市販後のアフターフォローができないのは海外のお客様であっても問題です。企業としてお客様に安全・安心にお使いいただかなくてはなりません。その対策として考え出したのが越境EC。これであれば直接消費者まで届けることが可能です。これを早期に稼働させるようにしたのですが、越境ECを始めた3年間ほどは鳴かず飛ばずでした。

 まだ日本でのインバウンド向け販売が好調だった時に越境ECを始めたわけですから、当然、社内からも「なぜ国内の販売が好調なのに、越境ECにお金をかけるのですか?」といった声が出てきたのも事実です。当時、来日した観光客が大量に医薬品を買って帰国するのを静観する国はないだろうと考え、何らかの規制などが発動されることも予想したのですが、さすがにコロナ禍までは予想できませんでした。

 当初、越境ECは自社サイトではなく、他社のサイトでの商品販売をお願いしていました。しかし、コロナ禍でインバウンド消費がなくなったのを機会に、より直接的に管理が可能な自社でのオンライン販売サイトを立ち上げ、自前で販売するようにしたのです。販売の勢いは止まりませんでした。

 コロナ禍では中国の大手ECではアリババ(阿里巴巴集団)の『天猫国際』とジンドン(京東集団)の『JD国際』がありますが、『JD国際』での「のど飴」のカテゴリーでは当社の商品がトップとなっており、『天猫国際』でもトップ10以内に入っています。中国人のインフルエンサーが当社の商品を発信したりしたときには、一晩で何千万円も売れたりしました。

 自社でも夜9時過ぎから会社でライブ販売を実施すると、画面上で現地のお客様と直接対話する機会もあり、当社ブランドが確実に浸透していくのを日本にいながら実感できました。

 ただ、中国らしいなと思う出来事も起こりました。当社の類似品が出てきたのです。当社の商品とそっくりな外観で商品名も「龍の散」。笑ってしまうくらいです。その中で興味深かったのはお客様の反応です。

 中国人のお客様からは「自分が買った商品は本当に龍角散の商品なのか?」といった問い合わせがくるのです。当社が「それは違います」と答えると、「なぜ、そんなものを売らせているか。早く片付けさせてください」と言われます。最近では中国人の中国での消費マインドも変わりつつあります。かつては偽物でも安ければ良いという考え方が多かったのですが、今はそんなことはありません。むしろ、本物を買いたいというマインドへの変化です。


中国国内の薬局などでは龍角散の商品が陳列されている

 類似品に対して裁判を起こすにしても、現地で直接販売実績がないと難しいため、いよいよ越境ECに加えて、一般貿易にまで進む決心をしたのでした。後日談ですが、中国現地での裁判では当社が勝訴し、中国政府からの排除命令が出され、当社には賠償金が支払われました。

以下、本誌にて

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