2022-05-09

【日本のDXの後れの要因】システム業界の商習慣を変える! 東大発ベンチャー PKSHA Technology

PKSHA Technologyの経営陣。写真左から、佐藤 哲・PKSHA Communication代表取締役、上野山勝也・PKSHA Technology代表取締、杉原雅人・PKSHA Workplace執行役員、渡邉陽太郎・PKSHA Technology自然言語処理技術・全社R&D研究開発責任者

デジタル格差が拡大する中、PKSHA Technology(パ ークシャテクノロジー)は「デジタルの恩恵を受けていないシニア層や、パソコンはないけれど電話はあるという人たちにもデジタルの恩恵を届けていきたい」(上野山勝也・代表取締役)と日本語の話し言葉で問い合わせができる対話エンジンサービスの普及に力を入れる。また、業界共通の課題を解決すべく、業界横断のプラットフォームの提供を開始。PKSHA が進めるAIの社会インフラ戦略とは─。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako




システム業界の風習を変えたい

「2012年に研究室のメンバーで創業。(AIの)研究開発をしてきたので、どう社会に実装すれば良いかを考えてきた」─。

 PKSHA Technology代表取締役の上野山勝也氏は会社設立の経緯をこう話す。

 PKSHAは東京大学の音声や映像処理の研究チームがスピンアウトして誕生。17年9月マザーズ上場。ベンチャーは赤字が多いが、同社の業績は上場以来黒字。22年9月期も売上高120億円、EBITDA24億円、営業利益10億円を見込む。

 黒字経営を続けている理由は創業のモチベーションにある。

「1社あたりの単価を上げるようなシステムインテグレーターの商習慣を変えたかった。『できなかった。でも儲かったね』ではキャッシュは残っても、クレジットが毀損してしまう。創業時から、信用自体を大きくして、結果、お金につながるという思想があった」と語る。

 上野山氏は会社のステージをフェーズ1、フェーズ2に分類。

 創業時はまだAIという言葉も知られていない時代。そのため創業時は企業との「研究開発」が中心で、その事業をフェーズ1、そしてフェーズ1の成果をAI SaaSとして「社会実装」したものをフェーズ2に分類。

 フェーズ1の「研究開発」ではトヨタやNTTドコモなどと共同研究を実施。またベネッセコーポレーションと『進研ゼミ高校講座』の学習アプリ『AI StLike(エーアイストライク)』を開発。

 50年以上の進研ゼミの学習指導ノウハウを活用して、1レッスンあたり約2000億通りの学び方の中から1人1人に最適な解説だけを抽出して提供するアプリを開発、20年『日本e-Learning大賞』で『経済産業大臣賞』を受賞した。

 フェーズ2の「社会実装」に向けて開発した商品には、チャット型対話エンジンの導入や定型的な問合せを自動音声対話で完結させ、オペレーターの負担を軽減できる対話エンジン『BEDORE(ベドア)』、よくある質問や回答(FAQ)サイトの作成から分析・運用・改善を簡単にできる『OKBIZ(オーケービズ)』などがある。

 AIベンチャーと呼ばれるPKSHAだが、ミッションは「未来のソフトウエアを形にする」。

「人とソフトウエアの共進化」を目指すアルゴリズムを商品化し、2354社に導入してきた。

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 こうして見ると、PKSHAはAIを活用したソフトウエア開発会社といえる。上野山氏も、大企業との共同開発で見えてきた課題を次のように語る。

「システムインテグレーターの多重下請け構造でソフトウエアがブラックボックス化して、ソフトウエアの改編に多額のお金がかかる。それから大企業しか先行投資ができず、デジタルの恩恵が業界全体に波及しない」

 こうしたシステム業界が抱える課題を解決すべく、「社内に埋もれた知恵やナレッジを企業の枠を超え、多くの会社が使えるようにしよう」とフェーズ2の事業として「AI SaaS」事業を立ち上げた。

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