2022-05-12

【システム障害からの出直し】みずほFG社長・木原正裕は「企業風土改革」ができるか?

木原正裕・みずほフィナンシャルグループ社長



DX時代の銀行の役割は?


 みずほFGは、この1年余りをシステム障害への対応に追われてきたが、その間も金融業界は変わり続けている。この出遅れをどう取り戻すか。

 前社長の坂井氏は、変化する顧客ニーズに素早く対応できる金融機関となるべく、「次世代金融への転換」を掲げ、ビジネス、財務、経営基盤の構造改革を進めてきた。「ビジネス、財務の構造改革はうまくいった。これはさらに伸ばしていく」(木原氏)

 それに加えて、木原氏が重視するのは社会で強まるデジタルトランスフォーメーション(DX)、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)の動き。この時代の中でみずほが強みを維持していくためにも、他にない付加価値を付けていく必要がある。

 DXについては、22年3月23日、グーグルとDX分野における戦略的提携を発表した。顧客の了承を得て提供してもらった情報や、グループの取引情報を活用し、顧客ごとに最適化された「ハイパー・パーソナライズド・マーケティング」の実現を目指す他、グーグルのクラウドを基盤とした新たなプラットフォームを構築し、デジタル銀行やBaaS(サービスとしての銀行)といった金融サービスの提供などを進める考え。

 顧客ニーズが多様化していると言われる昨今だが、木原氏には「お客様は、ご自分の嗜好やライフスタイルに合わない提案しかできない銀行は必要としていない」という危機感がある。

 さらに、この提携には企業文化を変える狙いもある。グーグルが持つサービスの力や知見を活用する中で、柔軟な働き方や創造的な企業文化に変えていくことを目指す。

「グーグルとの提携に対しては、社員から『みずほも、ようやく新しいことができるようになってきた』といったポジティブな意見が多かった。グーグルのいいところは取り入れながら、社会的課題を解決していくという、みずほのDNAも生かしていく」と木原氏。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)はアマゾン、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)はマイクロソフトと組むなど、他の2メガバンクもITプラットフォーマーと提携し、技術の蓄積を図る。3メガバンクを舞台に、プラットフォーマー同士が優劣を競う戦いも始まっている。

 低金利環境で既存の銀行が苦しむ一方で、テクノロジーを武器にITプラットフォーマーが金融事業への侵食を進めている変化の時代。この時代の中での銀行の役割をどう考えるのか。

「プラットフォームが乱立しているが、その中に銀行機能が入り込んでいくことはあり得る」と木原氏。みずほ自身も、自分達だけでは接点を持つことができない層に対してアプローチしていく観点から、外部のプラットフォームに機能を提供することもあるという。

 その一方で「銀行がなくなるかといえば、なくならない」と木原氏。例えば、脱炭素の実現に向けては世界で民間資金が3000兆円、日本で300兆円が必要だという試算がある。

「これを提供できるのは銀行であり、資本市場で投資家を仲介する機能。これはプラットフォーマーには難しい仕事で、その意味で脱炭素の時代に、我々には役割がある」

 その点でSXは重要課題。そこに向けて22年4月26日、みずほ銀行は脱炭素に資する「トランジション(移行期)領域」への技術開発やビジネスモデル構築に関する取り組みに対する自己勘定による株式出資枠を設定し、出資額500億円超を視野に運用を開始したと発表した。

 顧客が脱炭素に向けて実施するシード(技術の種)や、アーリーステージ(初期段階)の開発、始まったばかりのプロジェクトに対して出資する。

「今後のサステナブル領域を考えた時に、まだ検証されていない技術が多く、実用化のための実証実験が増えていく。そうした取り組みに対して、我々もリスクを取ってシェアしていく」

 実は、グループのみずほ証券は19~21年度まで3年連続で国内公募SDGs債の引き受けリーグテーブルで首位を獲得してきた。「脱炭素は待ったなし」とする木原氏は、今後さらに取り組みを強めていく。

アジア事業での出遅れを取り戻す


 今後、成長に向けては海外の成長をいかに取り組むかも問われる。この取り組みにもシステム障害で遅れが生じていた。

 この分野ではMUFGが米国でモルガン・スタンレーとの提携やMUFGユニオンバンクを持つ他、タイやインドネシアの銀行に出資。SMFGはベトナムやインドネシア、フィリピンの銀行に出資するなど海外戦略を強化してきた。

 みずほは21年12月、ベトナムで5割以上のシェアを持つスマートフォン決済最大手である「Mサービス」に出資。Mサービスが提供しているのは金融にとどまらず、幅広いサービスの入り口となる「スーパーアプリ」。みずほはこの企業と組み、アジアで「デジタルバンク」を構築することを目指す。

「アジアではスマホが非常に普及しており、デジタル金融が大きくなるベースがある。我々はそこに貢献していく。アジアにおけるデジタル金融の領域は、いい案件があれば注目していく」

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