2022-05-20

【政界】緊急事態条項創設が焦点に浮上 参院選後に問われる岸田首相の『本気度』

イラスト・山田紳



ウクライナ情勢が影響

 保守本流の宏池会(現岸田派)に属する岸田の憲法観は、本来なら安倍とは相いれない。しかし、岸田派は党内第4派閥で、政権の安定には最大派閥・安倍派の協力が必要だ。首相就任から半年以上が過ぎても岸田がなかなか独自色を出せないのは、党内基盤の弱さゆえでもある。

 1月の施政方針演説で岸田は「憲法改正に関する国民的議論を喚起するには、国会議員が国会の内外で発信していくことが必要だ。本国会でも積極的な議論が行われることを心から期待する」と述べた。憲法改正に取り組まなければ、安倍との距離は広がる。

 岸田は昨年11月、自民党の憲法改正推進本部を憲法改正実現本部に改称し、元国家公安委員長の古屋圭司を本部長に起用した。関係者によると、推進本部の本部長だった元衆院副議長の衛藤征士郎は憲法審の野党に弱腰な運営にいらだち、改憲に前向きな超党派の議員連盟を作ろうとして、岸田に更迭された。憲法審を有名無実化するような試みは逆効果と考えた岸田は「実務的な運営をするように」と古屋に指示した。

 昨年10月の衆院選で議席を伸ばした日本維新の会と国民民主党は、憲法審を毎週開くよう与党に要求した。両党を含めると改憲勢力は衆参両院で3分の2を超える。立憲民主、共産両党は憲法審の開催に抵抗するすべを失い、岸田が望んだ国会の状況が生まれた。

 外的要因も加わった。ロシアによるウクライナ侵攻だ。衆院憲法審では緊急事態条項の創設が優先すべき論点として急浮上した。

 先述した自民党の条文イメージは、緊急事態として「大地震その他の異常かつ大規模な災害」を想定し、①国会が法律を制定するいとまがない場合、内閣は国民の生命、身体、財産を保護するため緊急政令を制定できる②衆院選や参院選の適正な実施が困難な場合、国会議員の任期を特例で延長できる─と定めている。

 3月24日の衆院憲法審で、自民党の新藤義孝は「緊急事態の対象は大規模自然災害、感染症の大規模なまん延、テロ・内乱、ウクライナへの侵略行為といった国家有事の際の安全保障の4類型があるのではないか」と提起した。ウクライナ大統領のゼレンスキーが前日、日本の国会議員に向けてオンライン演説した余韻が残っていた。

 国民民主党の玉木雄一郎は新藤が示した4類型を「基本とすべきだ」と同調し、日本維新の会の足立康史も「議論に応じる用意がある」と表明した。

 国民民主党は今国会で22年度予算に賛成し、ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」の凍結解除を求めて自民、公明両党と政策協議を重ねた。解除は先送りされたが、玉木の与党志向は止まらない。日本維新の会は参院選をにらんでこうした動きと一線を画しつつ、憲法審では足並みをそろえている。

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