2022-05-20

【政界】緊急事態条項創設が焦点に浮上 参院選後に問われる岸田首相の『本気度』

イラスト・山田紳



反対名目失った立憲

 1年ほど前にも、新型コロナの感染拡大を背景に自民党内で緊急事態条項を巡る議論が活発化した。当時首相の菅も前向きだったが、党内の関心は「菅降ろし」や衆院解散に向かい、一過性に終わった。今回はその仕切り直しと言える。

 自民党が野党時代の12年に発表した憲法改正草案は、緊急事態宣言下で内閣は「法律と同一の効力を有する政令」を制定できるという規定を新設した。しかし、「戒厳令のようだ」などと専門家らの評価は散々だったため、18年の条文イメージでは「法律で定めるところにより」と緊急政令に枠をはめた。

 それでも他党の警戒感は強い。公明党の北側一雄は同じ3月24日の衆院憲法審で「ウクライナの国会は今も厳然と機能している。緊急事態だからといって、憲法に白紙委任的な緊急政令制度を設けることは、国会の責任放棄につながる」と批判した。同党は緊急政令に一貫して慎重だ。

 一方、国会議員の任期延長に関しては、自民、公明、維新、国民民主4党が必要性を認めている。維新は「憲法審として直ちに結論を取りまとめるべきだ」(足立)と合意を促した。

 では、自民党が緊急政令の部分をあきらめたら改憲原案を作成できるかというと、そう単純ではない。国政選挙の「適正な実施が困難」だと判断する主体は誰か。時の内閣が決めるとしたら、国会議員の身分を内閣が左右することになり、三権分立が揺らぐ。国会だとしたら、選挙ができないような緊急事態に召集が可能かという疑問がわく。延長幅も無期限とはいかない。現時点でこうした各論は手つかずのままだ。

 憲法問題に詳しい国会関係者は「参院選と同時の国民投票はあり得ないが、参院選後の見通しも現時点では立っていない」と語る。夏以降もしばらくは衆参両院の憲法審で粛々と議論することになりそうだ。

 「安倍政権下での改憲には反対」と繰り返してきた立憲民主党は、反対する名目を失って苦しい立場に追い込まれた。国民投票法に政党のCM規制などを盛り込む改正を優先するよう主張してこれまで時間を稼いできたが、その分、党内の憲法論議はおろそかになった。

 自民党はしたたかだ。4月14日の衆院憲法審で国民投票法をテーマに選んだ。

 同法は付則で、国民投票の公平と公正を確保するため、改憲案への賛否を表明する有料広告の制限や運動資金の規制などについて、21年の施行から3年をめどに「検討を加え、必要な法制上の措置やその他の措置を講ずる」と規定している。法律特有の回りくどい表現だが、「その他の措置」が入っているところがミソだ。

 同日の衆院憲法審で自民党の新藤は「法改正が必要な場合もあれば、運用上の措置で足りる場合もある」と立憲民主党をけん制。「検討の状況や結果が、改憲の発議に法的な制約を与えることはない」と強調した。国民投票法と改憲の中身の議論を並行して進め、立憲をテーブルに着かせる思惑が透ける。

 立憲の奥野総一郎は「国民投票制度の不備で日本国民の意思がゆがめられることは断じてあってはならない。措置を講じるまでの間は国民投票の実施は許されない」と食い下がったものの、分が悪い。

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