2022-05-23

【資源高騰、ウクライナ危機・経済安全保障…】 経済のブロック化が進む中、非鉄金属大手・三菱マテリアルの対策は?

小野直樹・三菱マテリアル社長

ウクライナ危機で資源価格が高騰。世界で資源の奪い合いが起きる中、使用済みパソコンやスマートフォンから出る廃電子基板のE-Scrap(都市鉱山)が注目されている。140余年の歴史を持つ非鉄金属大手・三菱マテリアル社長の小野直樹氏は「天然鉱石の賦存は偏在しているが、天然鉱石から取り出された金属が使用された製品は世界で満遍なく使われている。一度取り出して使われたものを回収して使える状態にしていくことは、経済安全保障上も必要なこと」とE-Scrapの必要性を語る。世界情勢が変化する中、三菱グループのルーツでもある同社の役目、そして今後の事業展開はーー。

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経済のブロック化で
地域ごとの循環型社会に


 ─ コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など、想定外の危機が起きる時代です。すでに資源高騰の影響が出ていますが、経営への向き合い方から聞かせて下さい。

 小野 ロシアによるウクライナ侵攻がこれからの企業経営に与える影響は大きいと感じています。地政学的なリスクは各地にあり、それがどういう形で表出してくるか分からないことを今回、思い知らされました。

 世界は1つと思ってきましたが、今後はビジネスを展開するエリアをある程度狭く考えていく必要があるかもしれません。

 また、「経済のブロック化」とも言われますが、経済が地域ごとに分断されていく傾向は強くなるのではないかと思います。

 わたしたちは主に非鉄金属を扱っていますが、経済安全保障も含めて、原材料をどう調達するかは、重要なテーマになってきます。

 これまで天然鉱石から必要な金属元素を取り出してきましたが、天然鉱石の賦存は偏在しています。一方、天然鉱石から取り出された金属が使用された製品は世界で満遍なく使われていて、こちらは偏在していない。

 そうなると、一度取り出して使われたものを回収して使える状態にしていく。いわゆる資源循環、リサイクルという方向に行くのは間違いないですし、経済安全保障上も必要なことだと思います。

 ─ 三菱マテリアルとしては、リサイクル、資源循環にどう取り組んでいますか?

 小野 廃電子基板から金・銀・銅その他諸々の金属物を回収するビジネスをやっています。

 日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカにも集荷拠点を設けて世界中で事業を展開しています。ただ、廃電子基板を集められる地域は今後、限定されてくる可能性があると思っています。

 経済のブロック化が進むと、地産地消になっていくと予想されるので、それに合わせて、地域ごとに循環型社会を創っていくことも必要なのだと思います。

 例えば、EUにはEU独自のルールがあって、EU圏内でモノを作って消費し、使い終わったら資源を取り出して再利用して循環させていく。

 そうなると、一度域外から入ってきた資源は、なるべく外に出さないようにして循環させていく、という考え方が広がる可能性はあると思います。

 ただ、今回のように地政学リスクが露わになり、カーボンニュートラルの動きにブレーキがかかる可能性があるように、世の中の動きには波があるので、大きなトレンドを見間違わず、変化適応力で乗り越えていくことが大切なことだと思っています。

 ─ 地産地消の流れがあるとのことですが、資源ナショナリズムは強まっていますか?

 小野 わたしどもは銅をメインに扱っていますが、銅の産地として有名なチリでは、鉱業の税制を見直して税金として銅から得られる収益を高めるべきであると議論されています。こうした動きは他の国でもあり得ますので、日本にすでに存在している資源をなるべくたくさん使えるようにして、地政学的リスクを和らげることが必要だと感じています。

 ─ どれくらいの量をリサイクルで賄えるものですか?

 小野 日本国内には様々な製品が存在していますが、それをリサイクルして使うにはコストがかかります。資源価格が今のように高騰するとリサイクルの優位性も高まります。しかしながら、値段は高くても社会的に意義があるという理由だけで全部リサイクル材料を使います、とはなりません。そこには経済合理性が働くはずです。

 それから、もう1つ重要なポイントが脱炭素です。

 天然の鉱石を採掘して、長距離を輸送して日本に持ってきて製錬するプロセスで排出されるCO2の量と、国内にある廃電子基板を集めて処理して出てくるCO2の量を比較して、より環境に優しいかを判断していくこともますます重要になってきます。

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