2022-06-07

【学研ホールディングス・宮原博昭】の課題 教育・医療福祉に次ぐ3本目の柱の構築は?

学研ホールディングス社長 宮原博昭氏



イノベーションと人件費の関係

 もっとも、事はそう簡単に運ばない。
 本当に苦労するのはイノベーションと人件費の関係だ。市場縮小などで赤字になる衰退部門をどのように活用していくかが課題になってくるからだ。

 そこで宮原氏は事業のイノベーションを起こすという点では、事業のルーツをしっかりさせながら進化させていくと考えた。実際の事例で言えば、出版部門と教育部門を連携させるといったやり方である。『学研教室』は出版部門がつくる学習参考書を教材にして勉強するという形でスタート。その後、両親が共働きで、家でなかなか親が教えられないという風潮になった。それなら、「先生をつけようということで、出版物プラス先生という形になって教室ができていった」という経緯。

 そうして学習参考書をつくる出版部門と教育部門が連携を取る形が誕生。

 学習参考書の編集者が学研教室の様子を見ることもできるようになり、『学習』や『科学』の営業担当者が『学研教室』の営業もするといったイノベーションを起こしていった。
 このようにして人件費の課題を解決してきた。

塾の課題

 小学生が小学校を卒業して、中学生や高校生になったときの学習ニーズにどう応えるか。
『学研教室』を卒業すると、大体全員が学習塾に進む。そこで同社は『学研メソッド』という会社を立ち上げた(2005年)。
 この事業はなかなかに難しいのが現実。その理由について「公立高校の入試のシステムは47都道府県ごとで違うんです。でも大学入試は一本でしょ」と宮原氏は語る。公立高校の入試は都道府県でバラバラなのだ。

 試験当日の学力テストを合否判定に100%認める県もあれば、当日の学力テスト50対内申書50という按配の県もある。
 また、兵庫県のように、内申書の評価が100%というところもある。
 中学校の3年間の成績で見ようということだが、逆に言うと、中学3年のときに頑張った者でも、中1のときに悪かった生徒はトータルで成績が悪くなる─というケースも出てくる。一方で、中3だけの成績で判定しようという県もある。

 そうした状況の中、学習塾の間では、再編・統合が進む。

 学習教室、塾、そして予備校といった教育産業の盛衰は人口動態と密接に絡む。1990年代前半に少子化は始まっており、人口全体は2008年をピークに人口減の時代を迎えている。
 同社は、2009年に早稲田スクール、創造学園を買収。2017年には塾大手の市進ホールディングス(東証スタンダード上場)の株式を追加取得し、持分法適用の関連会社化を進めている。
「塾が設立されたピークは1965年から1975年位。塾はエネルギッシュに子どもたちを教えて成功した。成功したんだけれども、後継者がいないという所が多いんです」

 今年4月にも、三重・昇英塾をM&Aしたばかりだ。宮原氏が社長になってM&Aした塾の数は20以上になる。社会状況、時代の趨勢(すうせい)を反映しての再編・統合を進めた。

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本誌主幹 村田博文

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