2022-06-07

【学研ホールディングス・宮原博昭】の課題 教育・医療福祉に次ぐ3本目の柱の構築は?

学研ホールディングス社長 宮原博昭氏



医療福祉も教育事業の掘り起こしの中で発掘

 もう1つの収益の柱である医療福祉事業は、どういう形でスタートしたのか。

 前述のように、少子化は1990年代前半に始まっていたが、学習塾の勢いはしばらく続いていた。
 最初に異変が見られたのは当時、主力事業であった学習雑誌の『学習』と『科学』。
〝学研のおばちゃん〟が直接家庭に届けるビジネスモデルで人気を博してきたが、共働き家庭が増え、親の在宅率が低下。学研独特の訪問販売方式がその影響を受けて、屋台骨が揺らぎ始めたのである。
 当時、神戸支社で学習誌の営業担当者の宮原氏も、「新小学1年生の家にドア・トゥ・ドアで訪問するんだけど、10軒に2軒位しか出てこない。当然、減収傾向になっていきます」と振り返る。

 そこで新規事業を出せと、20代の若手社員に新規事業の企画を募った。結果、宮原氏は新しい社会のニーズを発掘する。
 訪問時に両親が在宅しているのは全体の2割位で、大半は不在だったが、「お祖父ちゃん、お祖母ちゃんがいるんですよ」ということ。そこで祖父母世代とじっくり話をしていると、「年金で生活できて、子ども達の世話にならずに近くに住みたい」という声を聞くようになった。

 そうした声に着目して出てきたのが『サービス付き高齢者向け住宅』である。いわゆる『サ高住』と呼ばれる高齢者向けのサービスだ。
 サ高住は安否確認や様々な生活支援サービスが受けられる賃貸住宅で、有料老人ホームと比べ、入居者の負担も軽い。比較的、介護度が低い人や、自立しているものの自宅で暮らすことが難しくなってきた時の選択としてサ高住は捉えられている。

 同社は2004年、『ココファン』(現、学研ココファンホールディングス、連結子会社)を設立し、サ高住の提供に本格的に乗り出した。
「これは介護施設ではなくて高齢者住宅です。介護ステージにあわせたサービスを提供することで社会保障費は抑えられます。意義のある事業だと思います」

 要介護者の多い有料老人ホームなどと比べて、サ高住は賃料も安く、入居者も自立自助できるのが特徴。「年金で入れるというのが、サ高住のコンセプトです」と宮原氏。
 国全体で見れば、サ高住1棟ができると、年間200万円位のコスト負担減になるとされ
る。

介護関連も進化する!

 同社は介護施設として認知症高齢者のためのグループホームも運営する。このグループホームは家庭にできるだけ近い環境で、地域社会に溶け込んで生活することを目的に運営されるもので、ユニット型とサテライト型の2つのタイプがある。
 ユニット型は1ユニットに5人以上、最大9人までという単位での入居。サテライト型は1人暮らしができるタイプだ。

「グループホームはワンユニット9人と決められていて2ユニットが今普通ですから、施設1個持っていても18人なんですね。サ高住は大体60人位です」
 高級老人ホームなどは100人から150人位と入居者数も多い。高齢化が進む中、こうした介護関係での対応もきめ細かなものが求められる。
 介護施設(厚生労働省所管)と介護住宅(国土交通省所管)の数で同社は日本1であるが、入居者数は3位というポジションであるのも、こうした介護特有の事情が関わるからだ。

 介護関連施設の棟数で同社は日本1。入居者数の日本1はSOMPOホールディングスで、ベネッセホールディングスが2位、3位にオリックスと学研ホールディングスが並ぶといったポジション(本誌調べ)。

 今後、この介護関連事業にどう対応していくのか。
「サ高住に入居した後に認知症になられる方もいらっしゃいます。認知症人口の増加に対応するため認知症専門のサービス会社、MCS(メディカル・ケア・サービス)をM&Aしました」

「みんな根っこは一緒」

 教育分野では教室が塾を買収していくという形。医療福祉分野では認知症患者対応のように、介護サービスで進化した所をM&Aし強化していく方針。
 医療福祉への参入も教育事業での少子化、共働き家庭の増加という社会の変化を契機に始めたもの。「だから、全部根っこは一緒です」と宮原氏は強調。

「よく、学研は飛び地で勝負しているように思われて、多角経営ですねと言われるんですが、決してそうではないんです。そこはなぜかと言うと、赤字になる衰退部門の人件費を、どういうふうにして活用しないといけないかということも絡んできますからね」
 外から見ると、単なるM&Aで足し算をやっているようにも見られかねないが、そうではないということ。

「本丸の管理部門をどうするか。ここの仕事もちゃんとやらせないといけない。やはり進化の度合いを見て、関係する所をやらせないと、全く畑違いの所では人材の活用もできないし、異動ができない。そこが新規事業開拓のミソになっています」

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本誌主幹 村田博文

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