2022-06-12

「手本のない時代」をどう生き抜くか?【私の雑記帳】



小長啓一さんの提言

 本誌『財界』では前号(6月8日号)で、特集『新しい産業秩序・国際秩序を求めて』を組んだ。

 副題『日中のあるべき姿』として、日中国交正常化を成し遂げた田中元首相の秘書官を務めた小長啓一さん(のち通商産業省=現経済産業省事務次官、1930年生まれ)にインタビューした。

「あの時に田中さんがいなかったら、国交正常化を果たすことができなかったかもしれない」と語る小長さん。

 国と国の関係も突き詰めれば人と人の関係。中国側の責任者として田中首相と対峙したのは周恩来首相(1898―1976)である。

 戦前の日中戦争のわだかまりが中国には当時まだ根強くあった。その当時のことが交渉にも反映し、言葉の表現を巡って対立する場面もあり、日中交渉も流産の可能性があった。

 それを粘り強く話し合い、交渉をまとめ上げたのは、周恩来、田中角栄という2人のリーダーの卓越した手腕であった。2人とも苦労人であり、粘り強く、自国内を説得し、話をまとめ上げた。

「田中さんは中国の革命世代の第一世代である周恩来さんや毛沢東(国家主席)さんの目の黒いうちに、こういう難しい問題にけりをつけておかないと、第二世代、第三世代になったらできる話もできなくなってしまうと。これがかなり決定的な判断材料になったような気がします」と小長さん。

 新しい時代を切り拓く─。「ブロック経済ではなくて、競争的共存という考えでいくことが、世界のためにも望ましいと思います」と小長さんは語り、さらに「日本も果たすべき役割があると思います」と言っておられる。

 リーダーの使命は重い。

JR東日本・深澤さんの思い

 しなやかに、強靭に生きていく─。人の世にはマイナス面だけではなく、プラス面もある。発想を切り替えて、新しい時代を切り拓いていくことが大事だと思う。

 本号では、JR東日本社長の深澤祐二さん(1954年=昭和29年生まれ)に経営改革とこれからの同社の進むべき道を聞いた。

「グループ全員にとって、非常に厳しい2年間だったんですけれども、危機感、意識の転換は非常に大きく進んだと思います」

 旧国鉄が民営化されたのが1987年(昭和62年)で、今年は民営化35年という節目。

「まさにワンジェネレーションで、あと2年位で、国鉄からJRに移ってきた人たちは、もう定年を迎えるんです。完全にJR世代に切り替わるということです」と深澤さん(インタビュー欄参照)。

 今年3月、東北を襲った大地震。その復旧現場にはグループ企業をはじめ、協力企業と多くの人たちが作業に関わったが、「その現場、現場で指揮を執るリーダー格もまさに若返っていました。そういう意味では、そこはしっかり継承できているというか、世代交代ができているというのを実感できました」と深澤さん。

 そういう世代交代を実感すると同時に、現役社長として、コロナ禍で、「目の前から、お客様が全くいなくなった」という現実。

「駅から人がいなくなり、ガラガラの列車が走っていると。それでも、われわれは列車を走らせなければいけなかったら走らせますけれども、それを目の前で見て、非常に一人ひとりが感じるところがあったと思うんです」

 深澤さんはコロナ禍での自分たちの胸中をこう語る。

危機の中で収益力を!

 いろいろな危機が押し寄せる中で、企業の収益力、つまり、稼ぐ力が求められる。

 低物価・低インフレという日本の現象も結局は、日本企業の低収益力と関連がある。しかし、コロナ禍の中で、2022年3月期は東証プライム市場の約7割の企業が増益を果たした。

 稼ぐ力を付けようと、日本のガバナンス改革が始まった。2014年に株主と経営者との対話を増やそう、とスチュワードシップ・コードが導入され、2015年に経営者の役割ということでガバナンス・コードが導入された。

「資本のコストを意識した経営をやってくださいね、というのがガバナンス改革の基本」と、日本取引所グループCEO(最高経営責任者)の清田瞭さん。

 コロナ危機、ウクライナ問題の中で企業経営者も鍛えられる。

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