2022-06-11

ドラマ『北の国から』の作家・倉本聰が訴える「『もっと、もっと』から『なくす』『削る』への転換を」

倉本聰氏



世界中の人々にも共有される日本の「もったいない」精神

 ―― どうしても経済優先という考えが先行してしまっているのですね。ただ、こういった思想は元来、日本にあったものではないでしょうか。

 倉本 ええ。「もったいない」という考え方はまさにそうだと思います。「Mottainai運動」の提唱者であり、ノーベル平和賞の受賞者でもあるワンガリ・マータイさんがこの日本人の「もったいない」という思想に感銘を受けたわけです。ですから「貧幸」は、ここに結びつくんです。

 ―― ということは、「もったいない」という日本ならではの考え方は世界とも共有できると言えますね。その原点を見つめ直すことが必要ですね。

 倉本 そうだと思います。今こそ貧しくても幸せであるという発想に立ち戻るべきだと僕は思うんです。これは1つの哲学です。「進めよう、進めよう」という欲望は必ず「もっと、もっと」という発想につながります。それに合わせてどうしたらCO2の排出を減らせるかということに一生懸命になってしまう。そうではなくて、まずはこの「もっと、もっと」をなくせばいいのです。単純な話なのですが、これがなかなかできない。

 ―― 「なくす」という行動をとることが今の我々にとっては難しくなってしまったと。

 倉本 ただ僕はこの「なくす」という発想は田舎にこそ残っていると思うんです。

 ―― 例えば、テレビで『ポツンと一軒家』という番組がありますが、意外と都会の人に人気があるようですね。

 倉本 ここに出てくる田舎の人たちの生活には、「なくす」という要素が必ず含まれているからではないかと思います。

 ―― 彼らの生活は我々が失ったものを教えてくれますね。

 倉本 ええ。そもそもこの番組の企画は東京から生まれたわけではありません。関西から出てきました。やはり「なくす」「削る」ということから始めないといけません。際限なく出てくる「もっと、もっと」という欲望に合わせて新たな電源やエネルギー源を作っていくということ自体に無理があります。

 ―― ここに気づかないといけないですね。ただ、これができれば新しい経済を生み出せるようにも思えます。

 倉本 はい。もっと「しっかりした経済」になるような気がするんです。これはしっかりとした基本軸があり、欲望丸出しの経済ではありません。

 ―― 日本にはそういった経済を説いた二宮尊徳や渋沢栄一といった先達がいました。

 倉本 そう思います。そういう先達がいたからこそ、先ほど申し上げた「ポツンと一軒家」のような生活をする人が残っているのではないでしょうか。田舎には今でも「なくす」「削る」という生活が残っているのです。

以下、本誌にて

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