2022-06-20

「軽視できないイーロン・マスク氏の警告」みずほ証券チーフマーケットエコノミストの指摘

起業家イーロン・マスク氏は5月7日、「当たり前のことを言うかもしれないが、出生率が死亡率を上回るような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう。これは世界にとって大きな損失になる」とツイートした。以前より人口問題への関心が高いマスク氏が、日本に対して強く警告した形である。

 筆者はエコノミストとして、人口動態を重視する立場を長く保持してきている。経済というのは「人あってのもの」であり、個人消費は人の存在がなければ成り立たない。マスク氏の警告は、日本経済の最大の弱点を的確にしており、軽んじてはならない。

 個人消費のうち衣食住に関連する基礎的な需要の部分は、人の数が減り、しかも高齢化で一人当たりの購買需要が(個人差はあるにせよ)落ちてきてしまうと、必然的に縮小する。世帯数が減少すれば、住宅の需要も減る。マーケットとして国内市場に期待できる度合いが着実に低下するとなれば、国内での設備投資は迫力を欠くものにとどまり、企業の賃金政策では持続的に水準を底上げするベースアップ(ベア)はつけにくくなる。

 国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した将来推計人口によると、死亡中位・出生率中位の仮定で、日本の総人口は2065年に8808万人に、2115年には5056万人になる。死亡中位・出生率低位の仮定だと、2065年に8213万人、2115年に3877万人まで激減する。推計はそこで終わっているが、総人口はさらにゼロへと近づいていくだろう。

 人口減・少子高齢化というのは「クライマックスが感じられない」タイプの危機である。日々じわじわ進行しているため、普通に生活している分には気づきにくい。マスク氏の発言のように、なにか目覚まし時計の役割を果たすようなイベントがあれば、人々さらには政策当局者の危機意識は一時的には高まり得るものの、やはりと言うべきか、1週間も経たないうちにマスク氏の発言をニュースサイトなどで見かけることはなくなった。情報過多の時代であり、さまざまなニュースが流れる中に埋没してしまったのだろう。

 実は、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口には条件付きで行った、特徴のある推計も含まれている。たとえば、外国人の移動(日本国内への純流入)について仮定を行い、毎年75万人とする場合には、長期的に見て日本の総人口は緩やかに増加し続ける姿になる。

 外国人への漠とした抵抗感を抱く人々は、地方圏などでなお多いとされる。だが、出産適齢期とされる女性人口の絶対数がすでに減少しているだけに、高齢化への対応を含め、日本の経済・社会を円滑に回す上で必要な職種を入り口にして海外人材の受け入れを拡大していくことが、有力な選択肢になる。

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