世界最高峰のカーレースF1、NASCARにホイールを独占供給〝混ぜる〟とは、地方企業が抱える課題をグループ全体で解消する戦略。
「工場で困るのは繁閑差が大きいこと。固定費だけかかる閑散期にどう利益を出すか。そこで、例えば、海に油が流れたときにオイルの拡散を防ぐオイルフェンスという商品を閑散期の工場で作り、稼働率を上げています」
15年にM&Aした『オガワテクノ(現・未来テクノ)』が現在、オイルフェンスを製造しているが、同社は防衛省向け製品や防災用品などを手掛けていたものの、民事再生手続きで経営再建中に前田工繊が買収。グループ入り後は工場の稼働率を上げる他、港湾・河川汚濁防止用フェンスなど新たな分野に進出し、買収2年目には業績をV字回復させた。
また、投資先の設備投資にも力を入れる。工場の「5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)」につながる設備投資だ。
例えば、18年に買収した魚粉や魚油を製造する『釧路ハイミール』では社員の安全確保のため、川から水をくみ上げる設備の周辺に防護柵を設置。また社員が利用する浴場や休憩所を改装。これらの設備投資は社員との対話によって実現したものだ。
「社員との対話が大事だと思っています。『こうしたら、もっと生産性が上がる』『こういう商品を作ったら、こういうところに売れる』とか、社員はいろいろ考えています。それを吸い上げて、実行すべきことは実行する。釧路ハイミールでは社員の意見を聞いた後、福井(前田工繊)の製造トップが現場に入り、もう一度彼らの話を聞き、前田工繊と釧路ハイミールのアイディアを混ぜて新たな設備を作ったところ、生産性も上がり、社員も作業が楽になり、働きやすくなったと。結果、業績も上がり、求人の応募も増えるなど、地元のちょっとした人気企業になっています」
異色のM&Aとしては11年に経営破綻し、13年に買収した自動車用軽合金鍛造ホイール事業がある。同事業は現在、BBSジャパンとして、前田工繊の海外事業拡大の一翼を担っている。
BBSは90年代、F1用マグネシウム鍛造ホイールを開発。同社製品を採用したフェラーリチームの躍進を受け、他のチームも続々導入した実績を持つなど、高いブランド力をある。
だが、親会社の小野グループが経営破綻。前田工繊が再建に携わることになった。グループ入りした当時、BBSの売上高は50数億円だったが「ブランドの可能性を感じ」、200億円近い投資を実施。リブランディングプロジェクトを立ち上げ、22年から『F1』と『NASCAR』にホイールを独占供給することが決定。売上高も約130億円まで拡大、成長を続けている。
「工場がきれいになると、人の心も変わる。前田工繊と一緒になって何か成功体験ができることが大事だと思っています。グループの持てる資産を〝混ぜる〟ことで生まれる〝新結合〟でイノベーションを興していきたい」
地方企業1社では解決できない課題を前田工繊グループで解決する。中小企業の成長の限界を乗り越える取り組みが続く。
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