2022-06-28

耐性菌で年間130万人が死亡【塩野義製薬】が進める対応策

写真左から、GARDP事業・経営企画部 長のジャンピエール・パコー氏、同代表の マニカ・バラセガラム氏、塩野義製薬社長 の手代木功氏、同副社長兼ヘルスケア戦 略本部長の澤田拓子氏

「マーケットメカニズムだけでは、今後、抗菌薬の開発は行えなくなるだろう」─。こう危機感を述べるのは、塩野義製薬取締役副社長兼ヘルスケア戦略本部長の澤田拓子氏。

塩野義製薬の新型コロナ治療薬、米政府への供給協議も

 抗菌薬は人類にとって必要不可欠な薬剤だが、多くの問題に直面している。その代表例がAMR(抗菌薬耐性)。抗菌薬は使用を誤ると耐性菌が生まれ、薬が効かなくなり、命を落とす人が増えている。2019年度は約130万人、50年度には1000万人を超える人々がAMRで命を落とすという調査結果も出されている。

 必要な人々にも薬が届いていない。感染症患者はアフリカなど貧しい国に多く、薬を購入できないからだ。また、製薬企業にとっても、耐性菌の発生を防ぐため抗菌薬の使用は最小限に抑える必要があり、薬の販売が難しく、開発費の回収が困難。

 市場メカニズムだけでは、命を救う薬が開発されても有効に機能しない事態も起きている。

 塩野義はこの問題を解決しようと、HIV治療薬を先進国では高い薬価で提供し、患者は多いが、貧しい国々の患者には〝メディシンズ・パテント・プール〟という仕組みで、ジェネリックメーカーが薬を製造し、ほぼ原価で薬を提供。

 ただ、この仕組みも一時的な使用に限る抗菌薬ではビジネスモデルが成立しない。ビジネスの困難さを物語るように、近年、新規抗菌薬を開発して承認が下りたにも関わらず、倒産した米ベンチャーも2社出ている。

 コロナ禍で露わになったように、薬は国家安全保障につながる。米国では生物学医学先端研究開発機構が炭そ菌などの生物テロに備える備蓄として新規抗菌薬を購入、英国では国民健康サービスが一定期間の利用権として製薬会社に定額料金を支払うサブスクリクションモデルを導入している。様々な問題を抱える抗菌薬だが、塩野義は6月、自社の細菌感染症治療薬『セフィデロコル』をスイスに拠点を置く非営利団体とグローバルヘルス組織と提携し、新たな仕組みで薬へのアクセスを拡大させる取り組みを発表。持続可能なモデルを見出そうとしている。

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