2022-07-01

【慶應義塾長 ・伊藤公平】の企業間、大学間提携の プラットフォームとして

伊藤 公平 慶応義塾長

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いろいろな危機が起こり、なかなか“解”が得られない今、大学の存在意義と使命は何か─。「大学間、あるいは多くの企業との共同研究、いわゆるオープンイノベーションで問題解決を図るプラットフォームになること」と慶應義塾長・伊藤公平氏。いまコロナ危機に加えて、ロシアのウクライナ侵攻があり、先行き不透明な中で、問題解決へ動くリーダーの存在と共に、企業間、あるいは大学間の連携も求められる。創立者・福澤諭吉は「全社会の先導者たれ」と啓発し、人づくりに打ち込んだ。今年は、慶應義塾の前身『蘭学塾』がスタート(1858年、安政5年)して165年目に当たる。この歴史を振り返って、伊藤氏は「開塾の原点に戻ることが大事」と語る。開塾時もまさに時代の一大転換期。新しい“解”をどう模索し、どう掴み取っていくか。
本誌主幹
文=村田 博文

<画像>今の時代に何を思うか?慶應義塾の創立者・福沢諭吉

危機が頻発する中 大学に求められる使命

「予兆は、この数年間におそらくあったのだと思います」
 コロナ禍、ウクライナ問題と、人類にとって重苦しい危機がのしかかるが、慶應義塾長・伊藤公平氏はこんな感想を述べる。予兆とは何か─。

 例えば、人類のたどってきた過去を長期的視点でヒモ解き、未来を考察し、現代の人類が抱える課題(『21 Lessons(トゥエンティワン・レッスンズ)』)を著した歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏がいる。
そのハラリ氏を引き合いに、伊藤氏が語る。
「ハラリさんは、『サピエンス全史』で人類の過去を、『ホモ・デウス』で人類の未来を描き、いま現在について書いているのが、『21 Lessons』、21のレッスンズ(課題)ですね。彼はそれを2019年に書いています」

 危機のきっかけとなるものとは何か?「今の人類にとっていちばん危険なことは核戦争であり、地球環境破壊であり、テクノロジーの暴走といいますか、いわゆる、インフォメーションテクノロジーによるディストラクション、破壊だと。この3つがもっとも大きな危機のきっかけだと指摘しています」

 伊藤氏は、今回、ロシアがウクライナ侵攻を起こす危険性も同書から読み取れたとして、次のように語る。
「わたしが思っていることは、世の中の歴史学者の知見や考えていることを見逃してはいけないということです。つまり、学問や知というものには、それだけの重みがあるということなんですね」

 コロナ禍にしても、日本で最初に新型コロナウイルス感染者が確認されたのが2020年1月。以来2年数カ月が経つ。
 不明なことが多い感染症だけに、いろいろな声や反応が現われ、不安も広がった。中には、逆に、「大したことはない」とか、「ちょっと頑張れば、大丈夫だ」といった無責任な意見まで聞かれた。

 そのような状況で、しっかり物事の本質を見きわめて発言や提言をする人たちもいた。
「ええ、歴史学者の磯田道史さん(国際日本文化研究センター教授)や藤原辰史さん(京都大学教授)といった人たちは歴史をひも解きながら、どんなに公衆衛生や医学が進歩していても、これは長続きする、波状攻撃でやってくる可能性があると言ってこられた。2020年3月、4月時点での発言ですからね」

 国(政府)や政治家だけでなく、国民1人ひとりが課題解決へ向けて力を合わせていくということで、民間の知恵、とりわけ知見を集積し、研究の拠点でもある大学の役割は重いという伊藤氏の認識である。
 そして、大学の今日的使命について、伊藤氏が語る。
「今後、国はどう対応すべきか。また、どのように平和を維持し、国を守っていくか。そのようなことも含め、どう民主主義を守り、その中で、どうやって経済成長につなげていくのか。そういうことに対する提言を大学はしていかなければいけない」

 何より知に基づく判断が大事。そういう基本認識の下、関係者が協力して物事を進めていくことが、「大学のみならず、学問の果たす」役割であり使命であるという考え方を伊藤氏は示す。

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本誌主幹 村田博文

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