2022-07-12

【日本取引所グループCEO・清田瞭】の日本企業の稼ぐ力をもっと!

日本取引所グループ CEO 清田 瞭氏

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株式市場から見た日本の課題

 世界的な金融危機を引き起こした米国だが、その中でGAFAMといったIT(情報技術)系、デジタル系の新興企業が成長し、世界市場をまたたく間に席巻していった。
 日本はリーマン・ショック後に、円高、電力費高騰、規制などの〝6重苦〟に悩まされ続ける。
 日本の平均株価も7000円、8000円台と低迷していた。今の平均株価から見ると、3割位の超低水準である。
「なぜ、アベノミクス(2012年末)が登場するまで株価が低迷していたのかというと、それは日本企業の稼ぐ力が弱かったからですね」と清田氏。

 投資家の資金は、投資先として魅力ある所へ向かう。その魅力とは、企業がきちんと収益をあげて配当しているかどうかである。

 株式市場には、企業の力を見る指標がある、その指標で当該企業を評価(バリュエーション)する。
 その企業の稼ぐ力を見るのはROE(Return On Equity、自己資本利益率)。投資家が投資した資本に対し、企業がどれだけの利益をあげているかを見る指標。このROEの数値が高いほど、経営効率が高いとされる。

 今、岸田文雄政権下で、『新しい資本主義』が唱えられ、『成長』と『分配』の連動が認識されるようになった。「分配が先だ」、「いや成長こそが大事だ」といった不毛な議論は止めて、成長を実現し、所得再配分などの分配を実現していこう─という合意が何とかなされた。

歴代政権も成長を模索した。最近では安倍晋三政権の経済政策『アベノミクス』がある。この『アベノミクス』については、「完全に成果をあげたとは言えない」(某経済団体リーダー)という声もあるが、金融緩和もあって、株価を引き上げたという成果はある。

『アベノミクス』が2012年末に登場するまで、日本はなぜ平均株価が8000円前後と低かったのか?
 株式市場はその国の経済の姿を反映する鏡。日本の〝凋落〟ぶりを当時の鏡で見続けていた関係者の危機感は強かった。

「資本にはコストがかかっている」

 なぜ、日本株は低下し続けるのか?
 こうした問いを進めていくと、結局は「日本企業の稼ぐ力が低かったから」(清田氏)という答えに行き着く。
 今から10年ほど前のROEは4、5%程度。米国や欧州のそれは10%から15%という水準。欧米の投資家が日本株に資金を振り向けなかった理由がここにある。

「アベノミクスはそこに目を付けて、企業の稼ぐ力を上げようと。そのためには、日本企業の経営が非効率的だから、それを上げるのだと。すなわち、日本企業は、持っている資本をいかに有効に活用するかという観点が欠けているという認識だった」と清田氏は振り返る。

 一橋大学元商学部長の伊藤邦雄氏(現一橋大学CFO教育研究センター長)がまとめた、いわゆる『伊藤レポート』では分かりやすい目安として「ROE8%」を掲げた。
 以来、日本でもガバナンス(企業統治)改革の気運が高まっていった。
 経営者の目が企業内部に向かい、独りよがりになっていやしないか、もっと外の目を入れるべきだということで、社外取締役の導入なども進んだ。女性活用など、多様な才能を生かすということもそうだ。

「経営者に対して、意識改革を求めたわけですね」と清田氏は語り、次のように強調する。
「やはり企業経営というのは、株主から預かった資本をいかに効率的に事業で運用して、リターンを上げていくかということ。そのリターンから、様々な社会とのコミットメントを果した上で、最後に残ったものがROEの言う全体の純利益だと。企業がきちっとした稼ぐ力を上げるためには、ROEを大事にしていかなければいけない」

 資本生産性を上げる─。資本にはコストがかかっているという発想が日本の企業経営者の間では薄いという清田氏の指摘である。

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本誌主幹 村田博文

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