2022-07-12

【日本取引所グループCEO・清田瞭】の日本企業の稼ぐ力をもっと!

日本取引所グループ CEO 清田 瞭氏

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株主という存在の捉え方は?

 改めて、株主という存在は、どのようなものなのか?

 企業は多くのステークホルダー(利害関係者)を抱える。
 まず顧客、さらに従業員、取引先、地域社会、そして株主といったステークホルダーがいる。
 企業は活動していくうえで、従業員に賃金を払い、納税する。また顧客に商品やサービスを提供するための諸経費を払う。
 財務諸表の損益計算書(PL)でいえば、顧客や従業員、地域社会などのステークホルダー関連の諸経費を払った後に導かれるのが純利益。その純利益の中から、どれだけ株主へ配当するか、また、どれだけ投資に回し、内部留保はいくらにするかを決めるという段取り。

「ええ、これはいつもわたしが申し上げていることですが、企業が従業員や顧客、地域社会へのコミットメントをすべて果たし、取引先との契約も全部果たし、それでもその最後にのこった利益が純利益で、その純利益から配当や自社株買いで還元すると。こういう考え方であるがゆえに、株主と経営者との間での対話が大事になってくるということですね」

 経営者と株主との対話とは?
「株主が何を望み、何を求めるのか。そして経営をどうして欲しいのか。やはり成長のほうがいい、今は配当よりも、そちらを重視した方がいいという株主がたくさんいるのであれば、成長投資をたくさんやらなければならない。また、電力やガスなどの公益企業では、成長よりも安定的な配当をずうっとのぞみますよ、という株主が多ければ、そうした経営をすればいいということですね」

 清田氏は、経営者が株主との建設的な対話を徹底することによって、ガバナンスの効いた経営を実践していけると強調する。

今年4月の市場区分 再編後の課題

 要は、いかにコミュニケーションを取っていくかということ。そうした流れの中で、機関投資家と投資先企業の建設的対話を促すスチュワードシップ・コードの制定(2014)、そして経営者の行動規範であるガバナンス・コードを制定(2015)してきたという歩み。 そして、今回の東京証券取引所の市場区分の見直しである。
 この市場改革・再編の動きは、あの世界的金融危機のリーマン・ショック(2008)を契機にスタートした。
 世界的に株価下落が深刻で、当時の東証、大証(大阪証券取引所)も厳しい経営状況に見舞われた。そこで当時、東証のCEO・斉藤惇氏と大証社長・米田道生氏の英断で経営統合を決意、市場を統合した。

 東証は現物の取引、大証は国債先物やデリバティブの取引を主体にするというところから、市場再編は出発。紆余曲折を経ながら市場を統合し、東証1部、2部、ジャスダック、マザーズの4市場に再編したが、この市場区分も、「明確な投資対象としての性格付けが不明確になっていた」と清田氏。

 事実、不都合な面はあった。
 日本を代表する優良企業の集まりと見られていた東証1部がいつの間にか、何でもありの〝ごった煮〟の市場になっていた。
 東証2部やマザーズからであれば、時価総額40億円に達すれば、東証1部に移ることができる。しかし、直接上場やジャスダック、その他の市場からだと、250億円が必要とされ、その差は何と6倍にものぼった。東証2部やマザーズから東証1部への移行は、「裏口入学」と陰口をたたかれもした。

 今年4月、グローバル市場で戦えるような企業が上場する『プライム』、国内の中核企業中心の『スタンダード』、そして新興企業の『グロース』の3市場に再編されたが、課題は残る。
 4月前までの上場企業3777社のうち、プライムは1841社、スタンダードは1477社、グロースは459社という内わけ。旧東証1部の企業数は約2200社あった。それがプライムの新設で約1800社に絞られたが、『時価総額250億円以上』、『流通時価総額100億円以上』といった条件を満たしていない企業が約300社にのぼる。

 投資家の混乱を避けるための経過措置として、プライムへの上場が〝仮認定〟された形だが、早晩すっきりさせないと、何のための市場区分整備だったのかと疑問が残りかねない。
 日本取引所グループでは今夏、市場関係者、機関投資家、有識者などで構成する委員会を設置し、経過期間の具体的な年限を決める予定だ。

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本誌主幹 村田博文

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